昨今の中学受験では家庭の「進学塾化」、親の「塾講師化」が進んでいる。中学受験塾を主宰する矢野耕平さんは「合格へのプロセスや子育てに一家言持つ保護者が増えることで、私のような塾側が発信する記事やSNSに反対意見、批判が寄せられることがしばしばある」という――。

※本稿は、矢野耕平『ぼくのかんがえた「さいきょう」の中学受験』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。

矢野耕平氏
写真提供=本人
矢野耕平氏

中学受験は一家言持ちやすい世界

わたしは中学受験専門塾を経営し、中学受験生たちの国語や社会の科目指導をおこなうかたわら、中学受験や中高一貫校、国語教育などをテーマにした書籍やオンライン記事を執筆しています。

二〇二一年一〇月一五日、わたしは「アエラドット」(朝日新聞出版)という媒体で、「親子『二人三脚』の中学受験にひそむ落とし穴 中学入学後に伸びる子、苦しむ子の違いとは」というタイトルの記事を公開しました。

親の力を頼らず、わたしの塾の自習室をずっと活用して受験勉強に専心していた男の子の話です。彼は俗にいうトップレベルの学校に合格しただけでなく、中学入学後の成績伸長が目覚ましかったのです。さまざまな中高教員が証言するように、「親子二人三脚」で受験勉強を乗り切ってきたタイプの子よりも、中学受験勉強の際に「自学自習」の姿勢を身に付けた子のほうが学力をさらに高めていく可能性が高いのではないか……。

簡約すると、そういう内容の記事です。

すると、アエラドットが当時設けていた掲示板(現在は閉鎖)にこのようなコメントが書き込まれたのです。

「『見ているだけでこんなに良い子に育った』って素晴らしいですね~。世の中そんなできた人間ばかりじゃないんです。子どもの丸付けまでする親が悪いんですか? 気持ちいい言葉を並べて偉そうに。子育てビジネスで詐欺さぎまがいの本を出して金儲けしている人の言葉は重いですね(笑)。屋根の数だけ人間模様があり、あなたの薄い経験則でものを語れるほど子育ては甘くないんですよ!」

内容から察するに、わが子の学習管理に大変な思いをされた保護者でしょうか。

「子育てビジネスで詐欺まがいの本を出して金儲けしている」はわたしに対する誹謗ひぼう中傷に相当するのでしょうが、それ以外の文面を「柔らかく」要約すると次のようになります。

「あなたは親が離れて見守るだけで、学力をぐんぐんと伸ばす中学受験生の話を紹介していますが、そんなにできた子どもたちばかりではありません。ご家庭にはそれぞれの事情があり、みんな必死に子どもたちと向き合っているのです。あなたの目にした限られた成功事例を一般化してほしくないのです」

このように丁寧に書き直してみると、このコメントを寄せた方にも一理あるように感じられます。しかし、そこには所詮「一理」しかないのです。

わたしは平生X(旧Twitter)のアカウント(@campus_yano)で中学受験に関するさまざまな呟きをしています(中学受験とは無縁の下らない呟きも多いですが)。このXには中学受験生の保護者がわが子の塾の様子や成績、志望校などを発信するいわゆる「中学受験アカウント」に溢れています。

たとえば、Xの「スペース」(音声ライブ配信機能)を使って、中学受験情報などを同業者たちと配信した際には、多いときには一〇〇〇を超える「中学受験アカウント」が集まり、それを聴取しているくらいです。中学受験の盛り上がりというのはこういうところからも感じられます。