過干渉の結果は入試当日に表れる
わたしは保護者の管理が行き過ぎたゆえに、入試本番で大変な目に遭った子たちを数名見ています。そのうちの一人の事例を次に紹介します。
何年も前ですが、東京都在住のAくんという中学受験生の話です。
彼は二月一日からの都内私立中学校の入試に備えて、ひと足早く、一月から本番が始まる埼玉県と千葉県にある私立中学校の入試を受けました。一校目の埼玉県の中学は、彼の「持ち偏差値」より三ポイント下で「合格率八〇%」の判定が出ていた「安全校」です。
塾サイドとしてはよほどのことがなければ合格するだろうと踏んだものの、結果はまさかの「不合格」。その不合格の報をAくんの母親から電話で受けた講師によると、その母親は興奮気味にこう言い放ち、電話をガチャ切りしたというのです。
「もうウチの子の入試の応援に来ないでもらっていいですか? ウチの子、塾の先生が校門の前にいるだけで緊張しちゃうみたい。だから、落ちたんです」
いまはコロナ禍の影響で塾講師たちが自塾の生徒たちが受験する入試当日に校門前で激励する「入試応援」はなくなりましたが、かつては毎年おこなわれている行事でした。
件のAくんは「人生初の受験」でしたが、親の立場としても、わが子を初めて試験会場に送り出す経験をしたわけです。いきなりの不合格にうろたえる心情は理解できます。
こちらとしては申し訳ない思いがしましたが、不合格の原因が校門まで足を運んだ塾講師にあると決めつけるその母親の「混乱ぶり」が気に懸かかったのです。
Aくんに不合格だった「入試」の復元答案をすぐに作成してもらいました。そして、わたしは愕然としたのです。設問の条件の読み誤りなど、ミスを連発しているのです。
Aくんはポツリと言いました。
「試験が始まったら、頭が真っ白になって何も考えられなくなっちゃって……」
この埼玉県の私立中の不合格を受けて、Aくんの母親に千葉県の私立中学校の出願をお願いしました。今度は彼の持ち偏差値より一〇ポイント下の学校です。これなら安心だろうと思いました……。しかし、またもや不合格。
さすがにこれは、おかしい。再びAくんと面談したところ、試験当日の驚くべき母親の言動が分かったのです。Aくんによると、入試会場に向かう中、母親から罵声を浴びせられ続けていたとのこと。電車で向かう途中に車内で彼が参考書を広げていると、それを母親は取り上げて問題を出題し、彼が返答に詰まると「なんであなたはこんなのも分からないのよ!」「こんなんじゃ受かるわけがないでしょ!」と怒鳴られたそうです。
普段はあまり声を荒らげることのない母親なのに、年が明けたころからその言動がおかしくなった、とAくんは「密告」してくれました。母親は中学入試本番が近づくにつれ、「落ちるのではないか」という不安感に完全に支配されてしまったのです。そして、Aくんはその母親に追い詰められた結果、怯えながら入試本番に臨むことになった……。これでは普段の実力を発揮できないのは当然です。
少し極端な事例かもしれませんが、保護者がわが子の中学受験勉強から「一線」を引ければ、このようなことにはならなかったのでしょう。