猫田家のタブー
筆者は家庭にタブーが生まれるとき、「短絡的思考」「断絶・孤立」「羞恥心」の3つがそろうと考えている。
テレクラで出会い、中絶するしないでもめ、デキ婚をした挙げ句、結婚から5カ月で離婚した猫田さんの両親は、短絡的思考極まりないと言わざるを得ない。
その後母親は育児放棄し、父親は養育費を振り込まなくなり、猫田さんは祖父母に育てられるわけだが、若い祖父母とはいえ、やはり親ではない。幼稚園の時は他のお母さんたちの集まりに入れてもらえず、学校に上がってからは親がいないせいで猫田さんは肩身の狭い思いをした。三者面談の際には「親がいるなら親に来てもらってください」と言われ、祖母はとても苦労していたし、猫田さん自身は深い傷を負った。“親がいない”というだけで、猫田家は社会から浮いた存在になっていた。
また、これまで猫田さんの話を聞いていて、祖父母は常識的で愛情深い人たちのように思えるが、どうして母親はこうも自己中心的で非常識な性格になってしまったのか不思議だった。たずねると、猫田さんはこう答えた。
「母の兄、私にとっての伯父は、私から見ても祖母似で、母は祖父似です。実は祖父母は若い頃から仲が良くなく、祖父は母の兄である伯父には厳しく接し、時には暴力もふるっていたそうですが、母のことはとてもかわいがっていたそうです。まだ母と伯父が子どもの頃、夫婦げんかをした後、祖母は思わず腹いせに、『あんたはお父さんに似てかわいくないけど、お兄ちゃんは私に似てかわいいわ!』と言ってしまったことがあり、祖母はとても反省しているのですが、母はそれ以降、ずっと祖母を恨んでいるようです」
そうなると祖父に暴力をふるわれていた伯父もその後、悩みやトラブルを抱えてもおかしくなかったが、そうはならなかったようだ。猫田さんは言った。
「母は、サイコパスなのだと思います。母自身も、『自分は普通の感覚がないサイコパスなんだと思う』と言っていました」
では、家庭にタブーが生まれる3つめの要素と考えられる「羞恥心」はどうか。
母親の正体
幸いなことに、祖母の肺の影は、がんではなかった。
猫田さんは安心するとともに、祖母が元気なうちにひ孫を見せてあげたいと思い始める。やがて妊活、不妊治療を経て、コロナ禍に妊娠。無事息子を出産した。
「産後、母から『今まで何もしてあげられなかった分、赤ちゃんのお世話のお手伝いなどいろいろしてあげたいと思っています』というLINEが来ましたが、かけがえのない大切な息子のお世話を、子育て経験も責任感もない母に任せるなんてことは、とてもじゃないけどできないと思いました」
そして案の定、出産祝いはなかった。「お金がない、お金がない」と口癖のように言う割には、コロナ禍でも構わず、年中旅行に出かけていた。
祖母のがんの疑いも晴れ、自分が母親になったことにより、より強く自分の母親が“毒母”だったということを実感し始めていた猫田さんは、息子が2歳になろうとしていた頃、母親との絶縁を決意する。
母親に電話をかけると、中学の頃からそううつ病を患っていたこと、自分が母親になったことで実感した母親の“クズっぷり”など、これまで三十数年間ずっとため込んできたことを一気にぶちまけた。
すると母親は、意外にも自分がクズであることを認め、「実の娘や両親、親族全員に縁を切られて孫にも一度も会えず、腎臓病が進行し、心臓もやられ、旅行どころか仕事にも行けなくなり、在宅で何とかやっているが、今絶望の中にいてとても反省している」と答えた。
そこで猫田さんは畳みかけるように言う。
「自分が悪いことをしてきたと本当に反省しているなら、私の養育費を全く払わず祖父母に出させた分、お金がある時でいいから孫のために入れてほしい」
それを聞いた母親は、始めはうなずいて反省の弁を述べていた。しかし徐々に様子がおかしくなり、
「孫にお金を入れろって脅迫よ。裁判所からの命令なら払うから、私の育児放棄のせいで精神病になったって言って訴訟しなさいよ!」
と数分前とは真逆のことを言い出した。
猫田さんは唖然としつつも、「今は息子の成長にとって重要な時期だから育児に注力する。時間ができたら絶対に訴訟する」と言って電話を切った。
「母は人の血が通わない“サイコパス”であり、頭もチンパンジーより多少マシなレベルなのでまともな会話をすることは不可能であると判断し、“お猿さん”に時間や労力を使うより、かけがえのない息子の成長をしっかり見守ることにしました。両親に捨てられた私を実の娘のように引き取り、愛情を持って育て、大学まで行かせてくれた祖父母にはとても感謝しています。これからは、心の病の治療と大切な息子の子育てに専念して、前を向いて生きていこうと思います」