事業ポートフォリオというのは、一つの会社が手掛けている事業の組み合わせのことです。「総合電機」の看板を掲げている日立のような企業は、さまざまな事業を手掛けることでリスクを分散しながら収益を上げる仕組みになっています。リスクは低いが安定的に稼げる事業部門と、リスクは高いが成長が見込める事業部門とを組み合わせることで成長と安定のバランスを取るのが事業ポートフォリオです。
日立のセグメント情報で「事業部門別売上高・営業損益」を見てみると、金額ベースの売り上げが一番大きい事業部門は情報・通信システム。利益が一番大きいのは高機能材料事業部門で、特殊鋼や磁性材料、電線・ケーブル、半導体・ディスプレー材料、合成樹脂加工品など幅広い材料を取り扱っています。
こうした事業ポートフォリオがうまく機能し始めたのも、アジアを中心とした新興国の市場が伸びたおかげです。国内需要も新興国のおかげで伸びるような傾向があります。自動車産業などはそれが顕著で、国内でつくっている車もそうだし、国内でつくっている部品と合わせると40%程度は海外に輸出しています。
福島第一原発の事故の影響は少なくありません。米国の原子力プラントメーカーであるウエスティングハウスを買って原発事業への「選択と集中」を明確にしていた東芝も相当厳しいと思いますが、GEと原子力事業の合弁会社を設立した日立としても事業戦略の大幅な見直しを迫られることになるでしょう。国内外問わず、新規の原発受注は難しくなりそうです。
日立の電力システム事業の売り上げ構成比は8%で、利益で見ると5%程度を占めています。ただし、日立は原発だけではなく、火力発電プラントもつくっています。国のエネルギー政策の転換などで、こちらが伸びる可能性もあるかもしれません。
※すべて雑誌掲載当時
1957年、大阪府生まれ。81年京都大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。岡本アソシエイツなどを経て、96年小宮コンサルタンツ設立。『数字で考える習慣をもちなさい』『「1秒!」で財務諸表を読む方法』など著書多数。