人生で本当に大切なことは、どうすれば気づけるか。プロスキーヤーで冒険家の三浦雄一郎さんは「ぼくは治るかどうかも定かでない神経の病気にかかり、二年ぶりに雪の上に立ったことで『もう一度、自分の脚でスキーを滑りたい』という欲求が沸き立ち、大きなモチベーションになった。五体満足でいると、案外、健康のありがたさに気づかないもの。かえって病気の一つや二つくらいあったほうが、何か大事なことに気づいたり、本質的なことがわかったりして、人生が充実するのかもしれない」という――。(第5回/全5回)

※本稿は、三浦雄一郎『90歳、それでもぼくは挑戦する。』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

脊髄の病気発症から二回目の冬、二年ぶりに雪の上に立つ

札幌は大都市にもかかわらず雪が積もる街です。そのため、楽しみにしている旭山公園のウォーキングも、街が雪に閉ざされる冬はお休み。それに代わるように、待ちに待ったスキーシーズンがはじまります。

もう一度スキーをはいて、雪の斜面を滑ること。これは、脊髄の病気にかかった当初から、なによりも楽しみにしていたことです。

東京オリンピックの聖火ランナーを務めることも大きな目標でしたが、やはり、ぼくにはスキーです。

発症から二回目の冬に、ぼくは二年ぶりに雪の上に立ちました。

雪の上を歩くイメージ
写真=iStock.com/shironosov
※写真はイメージです

物心つく前からスキーをはいて育ったようなぼくですから、これほど長い期間、スキーをはかなかったのははじめての経験です。

場所はホームゲレンデのサッポロテイネスキー場。そのときは、まだ脚の筋力に不安が残っていたものですから、「デュアルスキー」というチェアスキーのような着座式の滑走道具に乗りました。

これは障害のある人でも雪の上を滑る楽しさを体験できるように、と開発されたスキー機材で、ぼくがスキーに付いたチェアに座り、息子の豪太が後ろからそれをコントロールするという二人一組で滑るものです。