「もう一度、自分の脚でスキーを滑りたい」という欲求
このときは短い距離でしたが、久しぶりに風を切って雪の上を滑るスキーの心地よさを味わうことができました。
それで味をしめると、当然のように欲が出ます。以前のように、自分自身でスキーをコントロールしたい、と。
このときは、まだ階段の上り下りもままならない状態だったのですが、短い時間でもスキーで滑ってからは、退屈だった毎日のリハビリにも一層、意欲的に取り組めるようになりました。
もう一度、自分の脚でスキーを滑りたい。この欲求が大きなモチベーションになったのです。
サッポロテイネスキー場は、札幌オリンピックのアルペンスキー競技会場跡地につくられたスキー場で、札幌市街や石狩湾が広がる景色のすばらしいところです。
また、山頂から麓のスキーセンターまでは、ビギナーや子ども連れでも滑ることのできる4kmの林間コースがあります。この4kmのロングコースを自分の力で滑り降りること。まずはこれがぼくの大きな目標でした。
週に2回のジムでのパーソナルトレーニングでは、冬が近づくと、スキーで滑ることを意識してスクワットトレーニングを取り入れてもらいました。スクワットは足腰から体幹までを鍛えることができるだけでなく、スキーの基本姿勢を整えるには最適です。
その成果か、発病して三回目の冬には、テイネの山頂から4kmのコースを自力で滑り降りることができました。
美しく雄大な景色と澄み渡った空気を味わうように滑り落ちる
「自力」とはいっても、まだ脚の力は万全ではありませんから、後ろから息子がロープでサポートしてくれます。これなら不完全なコントロールでオーバースピードになっても安心です。
ゆっくり滑り出し、疲れたら休み、十分に回復したらまた滑り出す。これを5回、6回と繰り返すうちに、ついには麓のスキーセンター前に滑り込むことができました。結局、12月から2月まで、テイネのスキー場には毎月1回ほどのペースで通いました。
まだまだ息子のサポートなしでは心もとないスキーでしたが、それでも最後のほうは、途中3回ほど休んだだけで滑り降りられるようになっていました。
3月には大雪山旭岳に行き、そこでスキーを楽しむこともできました。
アイヌの言葉で「カムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)」と呼ばれる大雪山の絶景の中、美しく雄大な景色と、澄み渡った空気を味わうように、ゆっくり、のんびりと滑り降りたのです。