理論は起こった現実を前提にしてつくられる

市場の創造は、商人の大事な仕事の1つだ。しかし、先に解説した「取引数最小化の原理」は、そこを見ない。商人は、すでに売り手と買い手が存在している市場に、一番遅れて参入してくる存在として見る。理論は、えてしてこうした答えを出してしまう。その理由は、「理論家は、物事が起こった後の世界を見て、そして理論を案出する」からだ。現在進行形の話を避け、終わった物事に解説を加える。

商業・流通の理論家も、できあがった市場を見て、商人の役割を考える。しかし、その市場が、商人の努力の結果つくられたものだとしたら、さあどうだろう。そこでは、論ずべきポイントが先取りされてしまっているのだ(拙著『マーケティング思考の可能性』岩波書店、12年)。

そうした理解を世に問うことの罪は、小さくはない。商業・流通理論が描く商人は、現実を新たに切り開き、新しい現実をつくりだすという魅力ある性格を無視し、市場に適応し市場の効率を上げるだけの存在である。高校や大学で、こんな消極的な商人像を教えられた若者は、果たして商業に夢を持てるだろうか。

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