発売3カ月前まで別の商品名だった
あきれるほどストレートなネーミング。キャッチフレーズの「ツンとこなくて、使いやすい」も、商品の特徴を過不足なく伝えて見事である。2009年2月の発売から1年間で約450万本を販売したが、これは初年度計画を10%以上も上回る好成績。お酢の世界に「やさしいお酢」という新ジャンルを切り開きそうな勢いだ。
「お酢は健康食品のイメージが強く、できればいろいろなシーンで利用したいが現実には使いにくい」。お酢のトップメーカーであるミツカンは、消費者調査などを通じて、このような傾向があることをつかんでいた。
使いにくい理由とは、大きく分けて「メニューが浮かばない」「ツンとくる独特の酸味が苦手」の2つ。製品開発で対応できるのは後者である。そこでミツカンは、お酢に揮発性がある酢酸以外の複数の有機酸(果汁など)を配合することで「ツンとこない」新商品を実現した―。
後知恵で解釈すると、やさしいお酢の開発ストーリーは、以上のように要約できてしまう。潜在的なニーズに向かって真正面から新商品をぶつけ、それが受け入れられたということだ。
しかし、それで済むならヒット商品づくりは誰にでもできる。現実の商品開発は、単純化できないもろもろの事情に取り巻かれ、迷走・遅滞・転進の繰り返しであることが少なくない。単純明快に見えるこの商品も、発売までにはそれなりの紆余曲折があったという。
「実は発売3カ月前までは、別の商品名にするということで上からもゴーサインが出ていました。営業マンに周知するときもその名前を使っていたんです」
開発を担当した家庭用ドライビジネスユニット製品企画部部長(当時は新製品企画課長)の新美佳久氏が振り返る。新美氏は「金のつぶ におわなっとう」などを手掛けたヒットメーカーである。