「こういう商品にニーズがあるのはわかっていました。しかし発売が近づいてからも『売れる!』という100%の確信は持てなかった。逆に、確信を持ってはいけないと思っています。多額の経営資源を投下するのですから、より可能性の高いやり方を追求すべき。発売直前であっても、もっといいアイデアが出てきたらそちらを優先すればいいのです」

直前になって変更したのはネーミングだけではない。売り方のコンセプトそのものを見直した。

やさしいお酢は「ツンとこない」だけはなく、ふつうのお酢のように砂糖や塩を足せば酢飯や煮ものに使えるし、炒めものや揚げものにかければ、さっぱりした味に仕上げられる。もちろん野菜や魚介にかけて酢のものをつくることもできるのである。問題は、そのどれをアピールするかということだ。

「私たちは当然、商品をたくさん売りたいので、すべての特徴を前面に押し出そうとしてしまいます。しかし、それではどうしても売り方にブレが生じます。結果、お客さまの心にストレートに届かない恐れがあると判断したのです」

この判断は重要である。

たとえばソニーのウォークマン(初代)は、「歩きながら音楽を楽しめる」という機能を強調するため、あえて録音機能を省いた姿で発売された。当時の開発担当者は「もし録音も可能であれば、単なる小型テープレコーダーとみなされ、あれほどの大ヒット商品には育たなかったと思う」と述懐している。

ウォークマンは機能そのものを絞り込んだが、やさしいお酢は、強調すべき機能を一つに絞り込んだことで、消費者の心により強くアピールすることができたのである。

※すべて雑誌掲載当時

(門間新弥=撮影)