ユニクロの出店を支えた大和ハウス

ユニクロ(ファーストリテイリング)の創業者の柳井正さんが書かれた『一勝九敗』(新潮社、2003年)の本の中に、大和ハウス工業の店舗開発事業部との取引の話が出てくる。ユニクロが九州へ進出したときからの付き合いとのこと。大和ハウスは、ユニクロのために、出店用の土地を斡旋し店舗を建設した。

柳井さんの話では、大和ハウスが斡旋してつくった九州最初の店の開店当日、お客さんの入りはいまひとつだった。それを見た大和ハウスの担当の方が、「えらいゆるいオープンですね」と言われたらしい。それに対して、柳井さんは、「そんな土地を紹介したのはあんたじゃないか」と悪態をつきそうになったというエピソードだ。両社は仲が悪いのかと思ってしまうが、そうではない。ユニクロは、売上高が1000億円を超えるまで社内に店舗開発事業部を持たず、大和ハウスに任せた。大和ハウスの当該事業部は、ユニクロの出店開発業務のほとんどすべてを請け負ったわけである。

大和ハウスの取引相手は、もちろんユニクロだけではない。全国に何百店と展開する有名チェーン企業の多くと店舗開発の業務委託を結ぶ。このビジネスに関しては大和ハウスは独走状態なのだが、どうしてそんな有利なポジションを獲得したのか。話はかなり古い。

同社がテナント企業と土地オーナーを結びつけるこの事業をスタートさせたのは、40年ほど前。主要道路に沿って出店適地を探り、その土地のオーナー一人一人にあたっていくという地道な営業活動を開始した。どこに空き地があるかは、当地の銀行に聞けばある程度までは掴める。だが、同社は、そうした手際の良い手をとらず、最初から直接土地オーナーに会って交渉するというやり方をとった。ネギ畑をやっている人のところに行って、畑仕事を手伝いながら新しい土地利用の可能性を説得するという、べたな営業努力が続いた。土地オーナーとの絆は、その後の同社の大きな財産となる。

オーナーには、その土地が長期にわたり安定した収益を生むことをアピールしたが、同時に、出店を考えるさまざまなテナント企業にも支援を行う。ユニクロもそうだが、チェーン展開を始めたばかりの企業に、店舗開発のノウハウは乏しい。これらをすべて一括したサービスとして提供した。それらテナント企業にとって、費用の節約の面でも、対外的な信用の面でも、そのメリットは小さくない。

こうした営業努力を積み重ねる中で、大和ハウスは、多くの土地を有効利用したいと考えるオーナーの気持ちを掴み、同時に各地に数多くの店を出店したいというテナント企業の気持ちも掴んでいった。この話、皆さんには、どう見えるだろうか。

大和ハウス店舗開発事業部は、自身は土地を持つわけではないし、自身が店舗を出店するわけでもない。土地を貸したい土地オーナーと、土地を借りて店舗を経営したいテナント。両者のニーズのマッチングを図る、まさに商人にほかならない。そして、商人としての彼らがやったことは、土地オーナーに長期に安定した収益機会の提供を訴えて「売り手」として市場に登場してもらうこと、そしてテナントに便宜を図り、出店の動機づけを与えることで「買い手」として市場に登場してもらうこと、であった。大和ハウスは、買い手と売り手、そして市場そのものをつくりだしたのだ。これこそ商人と呼ばれるにふさわしい存在ではないのか。