老人ホーム選びではどんなことに気をつけるべきか。介護・福祉分野を取材してきたジャーナリストの末並俊司さんは「私が取材した60代の男性は、良かれと思って両親を2人部屋のある老人ホームに入居させたが、半年ほど経ってから母親が『家に帰りたい』と言い始めた。介護アドバイザーの横井孝治さんによると、介護度が低い方の負担が増えてしまうため、仲がいい夫婦でも同室にするのはやめておいたほうがいい」という――。
老婦人の手をさすり、励ます訪問医
写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
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入居から半年で「帰りたい」と言い出した妻

年齢が上がれば、医療や介護の助けが必要なる人も増える。入居を考えなければならないこともあるだろう。終の棲家としての老人ホーム選びは重要だ。この選択を間違えると、人生の後半を暗いものにしてしまう可能性もある。

都内にお住まいの60代男性A氏が語る。

「数年前から当時70代の後半だった父親に認知症の症状が出始めました。2年前から訪問介護など、介護保険サービスを使って世話をしていたのですが、ここ1年ほどは、母も弱ってきたので、自宅での介護はそろそろ限界だと感じ、老人ホームへの入居を検討しまし始めました。幸い両親は夫婦仲がいいので、同室であればなにかと便利だろうと、2人部屋のある介護付き有料老人ホームに決めました」

ところが、入居から半年ほど経過したころ、母親かが「家に帰りたい」と言い出したのだという。

介護アドバイザーの横井孝治氏は次のように説明する。

「このAさんの例はわりとよく聞くケースです。仲がいいからといって、夫婦同室はあまりおすすめできません。どんなに行き届いたケアを提供するホームであっても、24時間、365日、スタッフがつきっきりで世話をすることは不可能です。そうすると、どうしても同室に住む、介護度の低い方の負担が増えてしまう」

Aさんのケースは、母親が要介護1で、父親が要介護4の状態だった。自宅にいるころは介護保険サービスを利用しながら、比較的元気な妻は夫の世話を焼くことに、さほどストレスを感じていなかった。自宅は東京郊外の4LDKの一戸建て。寝室は同室だが、日中過ごす部屋は別々だった。つまり逃げ場がたくさんあったわけだ。