夫婦仲がいいほど問題が起きやすい

前出の横井氏が続ける。

「もちろん老人ホーム全体で見たら、自宅より敷地は広い。それでも入居者の専有スペースは契約した部屋だけです。自宅に住んでいたころのように、敷地内を自由に使うことはできません。また、夫婦仲がいいというのもポイントです。妻は当たり前のように夫の世話を焼いてしまう。それを日常的に見ている施設のスタッフも“奥さんにまかせておけば安心”と心のどこかで思ってしまう。

夫からすると、オムツ替えなどについても身も知らぬスタッフより、妻にやってもらったほうがいいと、思っているかもしれません。そうしたことを肌で感じる妻は、ついついまた頑張ってしまう。美しい光景に見えるかもしれませんが、決して健全な状態とは言えません」

実は横井氏にも同じような経験があるのだという。

「うちは両親ともタイミングを合わせたように認知症の症状が出ました。最初のうちは遠距離介護を続けていたのですが、それも限界を迎え、施設介護へと方針転換し、2人とも同じグループホームに入居させました。同室ではありませんでしたが、同じ階に2部屋確保しての入居でした」

夫婦同室になることで生活の質が低下する

前出のAさんのように、入居当初は問題なく暮らしていたが、しばらくすると母親の方に、異変が現れ始めた。

「母親の体調がだんだんと悪くなってきた。“不穏”という言い方をするのですが、落ち着きがなくなったり、理由もなく攻撃的になったりの症状が出てきたのです。原因はどうやら同じ階に住んでいる父親の存在でした」

父親としてはどうして入居させられているのか分からない。周りは知らない人ばかり。そこに長年ともに暮らした妻の姿がある。すると、どうしても頼りがちになる。やがて付きまとうような行動にまで発展。そうした状況が続くことで、妻のストレスが増し、不穏な状態になってしまった。

日差しの入る部屋に空のベッドと車椅子
写真=iStock.com/kokouu
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「最終的に、両親の部屋を1階と2階に分けてもらうことで解決しました。母親の姿が見えなくなったことで、今度は父親の方が不穏になったのですが、一週間もすると慣れて、落ち着きを取り戻してくれました」

いくら仲が良くても、四六時中一緒にいたのでは息が詰まってしまう。毎日働きに出ていた夫が退職を機に家にいるようになり、そのために妻の体調が崩れる。「夫在宅ストレス症候群」という言葉もあるくらいだ。

老人ホームを選ぶ際も、夫婦の適度な距離には気を使いたい。