過剰に薬を処方し、患者の健康を害する

では、自分の専門外の病気を診察することになった場合、医者はどのような対応をするかというと、日常診療の基本ガイドが書いてある医学ハンドブック『今日の治療指針』(医学書院)などを参照し、書かれている通りの治療をします。

たとえば、自分の専門ではない胃潰瘍いかいようの患者さんを診ることになったなら、「胃潰瘍」の項目を見て、そこに書かれている通りの治療をする。薬にしても、そこに書かれている薬を、ガイドラインに沿ってそのまま処方することになります。

このように個人差を考えず、規定のガイドラインに従っただけの診療を行うと、どうしても総合的な診察の視点が抜け落ちてしまいます。治療や薬の処方も過剰になるので、なんらかの副作用が発生し、患者さんの健康を損なうリスクが高くなります。

特に、薬の害については、本書の第3章にて詳しくご説明しますが、これは無視できないほど大きな害を生みかねません。

白いプラスチック薬の容器から散在する多色の丸薬
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専門医が優秀な医者だとは限らない

そうはいっても、専門的な知識を持ったお医者さんに診てもらうことには意味があるのではと感じる方もいるでしょう。

日本では、それぞれの専門分野の学会が定める要件を満たし、専門研修を修了した医者には、「専門医」という肩書がつくことがあります。一見、その分野のスペシャリストとして頼りがいのある存在のように感じますが、専門医だからといって優秀だとは限りません。

日本には高齢者専門医の集まりである「日本老年医学会」という組織があります。しかし、この老年医学会の認定医や専門医が多い県は老人医療費が多くなり、平均寿命も短いとの傾向が出ています。逆に、老年医学会の研修施設が三つしかない長野県(地域医療で名高い佐久総合病院や諏訪中央病院は入っていません)では、平均寿命が男女共に高く、老人医療費が少ない傾向にあります。

高齢者医療の専門家であるはずの専門医たちが多いと、なぜ平均寿命が短くなるのか。これは、老人に対して逆効果になる治療しかしていないからです。

彼らの大きな問題は、実は老年医療の専門家ではなくて、呼吸器や循環器などの専門の人たちで占められている点です。自分の専門の科では教授になる選挙で勝てなかったので、気の毒に思った教授会が代わりのポストとして老年科の教授にしたという人が多いのです。

確かに彼らは呼吸器や循環器の専門家ではありますが、高齢者医療の専門家ではありません。高齢者にとってより良い治療というものがわからず、偏った専門知識で治療を行った結果、寿命も短くなるし、効果が出ないので医療費もかさむのでしょう。