性格は変えられないが、物ごとの受け止めかたは変えられる

もちろん、暴行やひどいいじめのように誰の心でも傷つけるようなストレッサーもあるのですが、職場環境のようにストレスを感じる人も感じない人もいる場合があります。

そしてひどい場合には、そのストレスのためにうつ病や適応障害と呼ばれる心の病に陥る人がいるわけです。

普通の人より、同じストレッサーを強いストレスに感じやすい人が心の病になりやすく、職場に適応しにくいわけですが、この理由になるとされているのが、歪んだ思考です。

このことを精神医学の世界では「不適応思考」といいます。

ペンシルバニア大学のアーロン・ベックという精神科の教授が、「認知療法」といわれるものの見かたや考えかたを変えることでうつ病を治療する手法を開発したのですが、それを通して、ペンシルバニア大学のグループが発見したのが、この不適応思考です。

今ではうつ病に限らず、パーソナリティ障害、拒食症や過食症などの摂食障害の人にも強く見られる思考パターンだといわれています。

たとえば友だちからメールの返信が来なかったときに、何か怒らせるようなことを伝えてしまったのではないか? と考えてストレスをつのらせている人がいたとしましょう。

この場合、一般的には心配性は生まれつきの性格のせいで、変えようのないものだと考えられがちです。

けれど認知療法では、物ごとの受け止めかたのせいだと受け止めます。そのうえで、人の性格は変えられないが、物ごとの受け止めかたを変えることはできるという前提で治療を進めていくのです。

ダメかいいかの間のグレーゾーンが考えられない

ベックの弟子のフリーマンは以下の12の不適応思考を想定しました。

1 二分割思考

白か黒かをはっきりとわける思考のことで、二分割思考の人は「敵か味方か」「善か悪か」といった極端な判断を下します。

たとえば誰かに「ここはこうしたほうがいいんじゃないの?」と指摘されたときに、この思考パターンの人は「基本的にはOKだけどここさえ直せばいいのか」というふうにダメかいいかのあいだのグレーゾーンが考えられません。

「ダメってことか。だったら白紙に戻す」などといい出すタイプは二分割思考にあたります。

こういう人は完璧主義者であるため自分で自分を追い詰めてしまうのです。

良いか、悪いか、二つに一つ
写真=iStock.com/glegorly
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2 過度の一般化

一つの事象を見て、それが普遍化された一般的なことだととらえてしまう思考のことです。

たとえば新入社員のひとりが挨拶をしなかったというだけで、「今どきの若い者は」と、若い世代の人を十把ひとからげにして決めつける人などが典型的なタイプ。

こういう人は、自分が何かうまくいかないことがあれば全部ダメだと考えやすく、うつ病になりやすいのです。

3 選択的抽出

ある一面だけに着目して、それ以外のことを無視してしまう思考のことです。

それまで順調にやってきたという過去があっても、たった一度の失敗で「もう、ダメだ、周囲の人に見限られた」などと考え、過去の成功体験には目が向かないのです。

反対に、一度信じたらいい面だけを見つめて疑うことをしないため、詐欺にあったりするケースもあります。