この数年、「HSP」という心理学用語が注目されている。心理学者で『HSPブームの功罪を問う』(岩波ブックレット)を書いた飯村周平さんは「HSPが『心が疲れやすくて、生きづらい人』として広く知られたことで、科学的根拠のない診断やアドバイスも急増している。『HSPは才能』といった言葉には注意が必要だ」という――。
落ち込んでいる女性
写真=iStock.com/Doucefleur
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コロナ禍でブームとなった「HSP」

新型コロナの感染が広がり始めた2020年。当時、マスメディアによって「HSP(Highly Sensitive Person)」「繊細さん」特集が次々と組まれていました。ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんや、元でんぱ組.incの最上もがさんなどの有名人がHSPであると公表し、話題にもなりました。

HSPは心理学をルーツとする言葉です。1996年、アメリカの臨床心理学者であるエレイン・アーロンが、自己啓発本のなかで「HSP」という言葉を使用し始めたことに由来します。

HSPという言葉が急激に人々に知られるようになり、その様子は「HSPブーム」と言える状況だったように思います。このブーム下でHSPは「ひといちばい繊細で、生きづらさを感じやすい人」という意味で知られるようになりました。

Googleで「HSP」と検索すると、上位にヒットするサイトでは「心が疲れやすく、生きづらいと感じている人」「まわりに合わせようとして無理をして生きづらくなる性質」など、繊細さによる生きづらさに焦点があたった説明がなされています。

拙著『HSPブームの功罪を問う』でも論じましたが、当時、X(旧Twitter)でHSPを名乗るアカウントは、自身のプロフィールとして「生きづらさ」と関連する言葉を使用する傾向がありました。現在でもそうかもしれません。さらに、次々と出版されるHSP書籍のタイトルに目を向けると、「不安」「うつ」「引きこもり」「つらい」などの言葉を冠する書籍が多かったのも特徴的です。

このような事実からHSPという言葉に対するニーズが垣間見えます。