なぜHSPは人々を魅了したのか?

繊細で「生きづらさ」を抱えてきた人々の中には、HSPという言葉を知って「今までの生きづらさの理由が腑に落ちた。救われた」と語る人々の姿があります。

彼らにとってのHSPラベルとの出会い。それは、言い表すことのできなかったこれまでの経験や、自己像に確かな輪郭が帯びる体験だったのかもしれません。人々がHSPの考え方に魅了されたのには、いくつかの背景があったと考えられます。

第一に、HSPが新しい「疾患名」ではなく「気質」を表すラベルとして広まったことです。

「繊細で生きづらかったり、他の人と違ったりしたのは、自身の努力不足だったり、病気ではなかったのだ。生まれ持った気質が理由だったのだ」という説明が与えられ、そこに救いを感じる人々がいたのかもしれません。ただし、こうした説明には、後述するように負の側面もあります。

第二に、繊細さによる「呪い」と「祝福」の両方を説明するラベルとしてHSPが広まったことです。

これは「繊細な自分は傷つきやすくて生きにくい。でも、繊細だからこそ、物事の良い側面にも気づいたり、それを味わったりすることができる」という意味です。「自分の特性は単にネガティブなだけではなく、ポジティブな側面もあるのだ」と励まされた人々もいるようです。

ベッドで座っている人
写真=iStock.com/Tzido
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「5人に1人いる」という絶妙な割合

第三に、直感的にわかりやすい「タイプ分け」が挙げられます。HSPブームでは、HSPをさらにいくつかのサブタイプに分ける診断テストが人気になりました。

例えば、いくつかの質問に回答すると、「HSS(刺激希求型)型HSP」「外向型HSP」「内向型HSP」のように診断してくれるテストがあります。ただし、こうしたタイプ分けに明確な学術的根拠があるわけではありません。HSP診断テストもそうですが、ネット上の「心理テスト」はどの項目を選んでも、誰でも少しは当てはまるような回答が用意されているので、あたかも「自分の性格が言い当てられた」かのように感じます。

その他にも、しばしば説明される「HSPは5人に1人いる」といった絶妙な割合、「生きづらさ」に「名前がつく」ということなどが挙げられます。それらの要素も、人々が自分を説明するラベルとしてHSPを取り入れる要因になったのかもしれません。