発達障害の当事者はさまざまな苦しみを抱えている。『ルポ 高学歴発達障害』(ちくま新書)を書いたフリーライターの姫野桂さんは「世間では『発達障害は天才』という受け止めもあるが、実際には発達障害に苦しんでいる人も多い」という。姫野さんの著書から、発達障害の特性から何度も転職を繰り返すことになった女性のエピソードを紹介する――。
薄暗い部屋の床に座っている女性
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「発達障害者は天才」という大きな勘違い

トーマス・エジソンやスティーブ・ジョブズなど「歴史的な偉人や著名人が実は発達障害であった」という言説はいろいろとある。そのため、「発達障害は天才」と言われる風潮が一時期あったが、それは誤りである。

発達障害者の中には特別な力を持つ人、例えば一度見たものを写真に撮ったかのように隅々まで詳細に覚えているといったサヴァン症候群(障害とは対照的に突出した能力を示すこと)の人がいることは事実だが、それは発達障害者の中でも特別な能力を持っているからこそ注目されているに過ぎない。

また、「発達障害は個性だ」と言われることも多いが、これも当事者自身以外は言うべきではない禁句であるように私は考えている。個性で言いくるめられないから困りごとを抱えたり、苦しんだりしているのだ。発達障害の特性を持っていても仕事やプライベートがうまくいっている当事者のみが「発達障害は個性だ」と言える。周囲の人びと、特に健常者が「発達障害は個性だからさ」と励ましのつもりで放った言葉が当事者たちの首を絞めているのだ。

加えて、「ケアレスミスをしやすい」「遅刻してしまう」といった当事者の悩みに対して「そういうことは誰だってあるから気にしないほうが良いよ」といった励ましの言葉も、健常者の物忘れとは次元が違うため、言われたら心を閉ざしてしまう原因になると覚えておいてもらいたい。