東京・明治神宮外苑では、神宮球場や秩父宮ラグビー場などを建て替え、高層ビルを建設する再開発が計画されている。だが、計画に反対の声が相次ぎ、再開発は半年以上遅れている。写真家の宇佐美雅浩さんは昨年12月、再開発に反対の立場から、神宮外苑の象徴であるイチョウ並木に130人を集めて写真を撮影した。宇佐美さんに撮影の狙いを聞いた――。
《声なきラガーマン 神宮外苑 2023》インクジェットプリント
《声なきラガーマン 神宮外苑 2023》インクジェットプリント (c)USAMI Masahiro Courtesy Mizuma art Gallery

「3.5%」が立ち上がれば、社会は変えられる

――なぜ「神宮外苑の再開発」をテーマにした写真を撮ったのですか。

もともと神宮外苑の近くに11年住んでいたこともあって、再開発の問題にはどちらかといえば反対の立場で関心を持っていました。音楽家の故・坂本龍一さんが小池百合子都知事に再開発反対の手紙を送ったことも知っていましたが、特別にアクションを起こすことはありませんでした。

そんな中、昨年5月、東京大学大学院の斎藤幸平准教授を撮影する機会があり、そこで「ハーバード大学の政治学者エリカ・チェノウェスらの研究によると、『3.5%』の人々が非暴力的な方法で、本気で立ち上がると、社会が大きく変わる」という話を聞いて、胸が熱くなるのを感じました。

「3.5%」であれば、何とかできるかもしれない。私も作家活動を通じたアクションを起こさなければ、と思うようになったのです。そこで、私のライフワークである「Manda-la(マンダラ)」のシリーズで、神宮外苑の再開発を撮ることにしました。

作品のモチーフは「個人とシステムの対峙」

――過去の「Manda-la」では、政治的な対立を描くことはあっても、作品自体は中立の立場でした。なぜ今回は「再開発に反対」という立場で、作品を撮ったのですか。

「Manda-la」は仏教絵画の「曼荼羅」のように、あるテーマに関係するたくさんのものや人々を配置し、1枚の写真に収めるというものです。撮影場所に何度も赴き、現地の⼈々とリサーチや対話を繰り返すことで、地域が抱える問題や歴史、社会の有様を写真で表現します。

たとえば2013年に撮影した「伊藤雄一郎 気仙沼(宮城) 2013」では、津波で気仙沼の市街地に打ち上げられた共徳丸を、解体2日前に撮影しました。地面には流されたのち回収された大漁旗約400枚を敷き詰めました。

「伊藤雄一郎 気仙沼(宮城) 2013」
《伊藤雄一郎 気仙沼(宮城) 2013》タイプCプリント(c)USAMI Masahiro Courtesy Mizuma art Gallery

2014年に撮影した「早志百合子 広島 2014」では、世界中で読まれる被爆体験文集『原爆の子』の執筆者の一人である早志百合子さんを中心に据えています。高齢者から子どもまで4世代にわたる撮影参加者とボランティアスタッフを合わせ、約500人の協力を得て、原爆ドーム前での撮影を行いました。

「早志百合子 広島 2014」
《早志百合子 広島 2014》タイプCプリント (c)USAMI Masahiro Courtesy Mizuma art Gallery

2017年の「マンダラ・イン・キプロス 2017」では、「世界最後の分断首都」のひとつとされるキプロスの首都ニコシアをモチーフに、ギリシャ系とトルコ系のそれぞれの人たちに撮影に参加してもらいました。

「マンダラ・イン・キプロス 2017」
《Manda-la in Cyprus 2017》インクジェットプリント (c)USAMI Masahiro Courtesy Mizuma art Gallery

今回の「声なきラガーマン 神宮外苑 2023」は、もちろん再開発に反対という私の立場が投影されていますが、作品のモチーフは再開発計画そのものというより、「個人とシステムの対峙」というものです。