拉致された人たちが幽閉されている

10月以降、特に注目を集めているのは、ハマスがイスラエル国内から拉致した民間人を、トンネル内に幽閉していることだ。CNNは、17日間拘束された85歳のヨシェベド・リフシッツさんのケースなどについて報じている。

リフシッツさんは、トンネル網はまるでクモの巣のように張り巡らされていたと表現し、入り組んだ巨大な施設であったと明かした。

人質解放はイスラエル軍にとって優先課題だ。イスラエルは直近で、一時休戦の交渉材料として、トンネル内に残されているとみられる200人以上の人質の一部の解放が進んでいる。イスラエル軍が人質解放を急ぎたい理由は、実は捕らわれたイスラエル市民の安否以外にもあるのだが、それについては後述する。

有刺鉄線と背景のエルサレムの街
写真=iStock.com/Stadtratte
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トンネル内ではGPSの有効性が著しく制限される

さて、ハマスの拠点制圧を目指すイスラエル軍にとって、トンネル網への突入は不可避だ。だが、実際にトンネル内部での戦闘に発展すれば、イスラエル軍は大変な不利に立たされる。ガザの地下に潜む高度なトンネル網のインフラが、イスラエル軍には難敵となろう。USAトゥデイ紙は、トンネルの複雑さとハマスの戦闘員の訓練や装備が相まって、イスラエル軍にとって通常の地上戦とは異なる困難な環境になると指摘している。

トンネル内ではGPSの有効性が著しく制限されることから、迷路のようなネットワーク内を突き進むことが困難となる。アルジャジーラは、トンネルを正確にマッピングするには、イスラエル軍の兵士たちが実際にトンネルに入る必要があり、相当のリスクを生じると推測する。地下では衛星信号が届かないため、磁気センサーや移動センサーなど精度の劣る機器に頼らざるを得ない。

「病院付近の縦穴」は単なる貯水槽のハッチだった

ただでさえトンネル内には、ハマスが仕掛けた「ブービートラップ」に遭遇する危険がある。また、万一狭いトンネル空間で爆発が生じれば、酸素が枯渇し窒息の危険が生じる。ニューヨーク・タイムズ紙は、イスラエルが軍事的優位に立っているにもかかわらず、ハマスのトンネル内での戦闘では苦戦するだろうと指摘する。特殊な戦術と装備が必要であり、このような環境では通常の戦法が通用しない。

そもそもトンネルに入るにはその入り口を見つける必要があるが、それ自体が難度の高い作業だ。アルジャジーラによると、病院の付近にコンクリートで覆われた縦穴が見つかった。地下トンネルへの入口であるとイスラエル軍によって断定されたが、後に、単なる貯水槽のハッチであったことが判明する。ハマスのトンネル網を正確に特定することの難しさを示す事例だ。