野球に見切りをつけ、会社員になる選手たち
野球選手にとって、競技引退後のセカンドキャリアは、必ず訪れる。それは、プロに限らず、アマチュアも例外ではない。
昨年10月。JR東日本野球部で投手として活躍していた山口裕次郎さんは、監督からシーズン終了と同時に勇退を告げられた。当時24歳。現役の道を模索することもできたが、「悔しい気持ちはありましたけど、自分の実力不足で終わるなら、もうJRで現役を終わろうかなと。未練はなかったです」と現役を引退し、JR東日本の社業に就くことを決断。研修を経て、2023年1月から御茶ノ水営業統括センターに配属され、現在は御茶ノ水駅で改札業務などを行っている。
「野球部の頃は支社にいて、駅にはいませんでした。それまでずっと野球をやってきてアルバイトもしたことがなかったので、最初はどうなるのかと思いました。でも、やっていくうちに野球で学んだことを生かせたというか、駅も1人だけじゃなく、全員で連絡を取り合って緊急事態などにも対応していく。野球をやっていたからこそ、いい意味で違和感なく入っていけました」
「ドラフト4位以下なら行かない」と言っていたが…
山口さんは大阪・履正社高時代、最速146キロの直球を武器に、エースの寺島成輝さん(元ヤクルト)と左腕2本柱を形成。2016年夏の甲子園出場に大きく貢献した。高卒でプロ入りしたい思いもあったが、同時に社会人野球への魅力も感じていた山口さんは、同年のプロ野球ドラフト会議にあたり、調査書が届いた11球団に「ドラフト4位以下であれば社会人(JR東日本)へ進むので、指名を遠慮してもらいたい」という意向を伝えていた。
しかしドラフト会議当日、日本ハムから6位での指名を受けた。「家に帰る直前に6位指名を伝えられました。まさかという感じでしたね」。山口さんは熟考の末、日本ハムに断りを入れ、社会人球界からプロを目指すことを選択したが、フォームを崩し、本来の投球を見失ってしまう。結局、プロはおろか、アマ最高峰の大会である都市対抗野球大会での登板も果たせないまま、夢半ばで静かにグラブを置いた。
山口さんより一つ上の順位となる日本ハム5位指名の高山優希投手(大阪桐蔭高)は、契約金3000万円、年俸520万円(金額は推定)で入団。ただ、プロ6年間で一度も1軍のマウンドに上がることなく、山口さんと同じタイミングで球団から戦力外通告を言い渡された。もし仮に山口さんが日本ハムに入団していれば、同じ高卒左腕の高山さんより低い条件からスタートしていることになる。