吸引力が落ちる紙パック式掃除機にイライラ

当時、掃除機と言えば、日本企業が開発した紙パック式が世界の標準だったが、紙パック式の弱点は、使っているうちに目が詰まって、途中から集塵力が落ちてしまうことだ。ダイソンは、掃除機を使うたびに、フラストレーションを募らせていた。

掃除機のイメージ
写真=iStock.com/Toru Kimura
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いま、フラストレーションと言ったが、実は、新しい商品、サービス、ビジネスモデルに気がつくときというのはほとんどすべて、自分自身のフラストレーションが気づきのスタート地点となる。

凡人は、フラストレーションを感じたら、黙っているか、身近な人に文句を言って終わる。モンスタークレーマーはわざわざ時間をかけて、コールセンターに電話をしたり、インターネットでお客様相談室に文句をたらたら書く。SNSに書いて拡散させる人もいる。凡人と悪人はこういうことをする。

これに対して、アントレプレナーの資質を持っている人はどうするかと言うと、フラストレーションを感じた瞬間に、自分でこれをどう変えられるか、と考える。これをどう変えれば、このフラストレーションを解決できるか、と昼夜パラノイア的にしつこく考える。

つまり、アントレプレナーにとっては、日常生活で感じるあらゆるフラストレーションはすべて新しいビジネスを立ち上げる機会になる。

「だめなら、自分がゼロからつくろう」

ジェームズ・ダイソンも、結局、最後に、紙パック式掃除機は根本的にだめだと納得するまで、何度も何度も自分で補修した。まさに、パラノイアだ。そして、だめなら、自分がゼロからつくろうと考えた。まさに、アントレプレナーだ。

そして、先に書いたように、塗装スプレーの粉塵を吸い込むサイクロン式分離機を見た瞬間のひらめきから、さっそくそのサイクロン方式を用いた掃除機づくりを始めるわけだが、そのプロセスもまたパラノイアでないと難しい。プロトタイプ、つまり試作品を借金を抱える身で、5127個もつくったわけだから。異常で、天才だ。

でも、だからこそ、世界で最も売れているサイクロン式掃除機が生まれた。そして、いまや、世界の掃除機の標準方式となっている。