「羽根が邪魔だ」からヒット商品が誕生
その後のかれのヒット商品は、羽根のない扇風機だ。扇風機の羽根が邪魔だとは、普通の人は思わない。風を起こすには、プロペラがいるのが当たり前だと思うから、誰も羽根のない扇風機なんて思いつかない。
でも、あるとき、かれはその羽根の存在にフラストレーションを感じてしまった。プロペラ以外の方法で風を起こすことはできないのか?
そうして生まれた、特徴的なフォルムの羽根のない扇風機は、静電気を利用して風を起こす。実は、それ自体は、昔から知られている技術で、別にかれが発明したわけではない。だから、いまでは、多くのメーカーが似たような形の羽根のない扇風機をつくっている。
サイクロン方式も、そうだ。昔から考えられていた技術で、かれが発明した技術ではない。でも、そういうもともとある技術を活かして、それを掃除機にしたり、扇風機に変えていく。徹底的にひねって工夫してこねくり回しながら磨き上げていく。まさに、パラノイアだ。そして、それが、ダイソンという個性的なベンチャーを生み、いまも世界の生活に驚きを提案している。
ジェームズ・ダイソン曰く、「ダイソンには、スタートアップの精神、すなわち実験し、学び、冒険する自由を持ち続けてほしいと考えている。僕らには階層的マネジメントは不要だ。それは無難な方法かもしれないが、僕らは週単位で変化、進化する協働的企業である」と。