20センチの穴が開き、膿で猛烈に臭い

なぜ、寝たきりの状態をそれほど憎むのか。それは床ずれ褥瘡じょくそうができるからだ。床ずれの存在を彼は許していない。

酒向は「病院で何度も見ました。あんな状態にしちゃいけないんです。人間なんだから」と言った。

「床ずれって、みなさんご存じないだろうけれど、皮膚がかぶれることじゃないんです。皮膚がなくなって穴が開くんです。背中というか腰に20センチぐらいの穴が開いてしまう。2000年まではよくあることでした。

痛くないのか? ええ、実は痛いのは最初だけなんです。傷は、みなさん経験あると思いますけれど、切って痛いのは少しの間で、時間が経つとそれほどでもなくなる。

ただ、膿が出て猛烈に臭い。褥瘡ができた人の部屋はほんとに臭いんです。そんな部屋に人を寝かせておくのは非人間的です。ですから、私はとにもかくにも寝たきりにはさせないと決めました。それもあって現在では患者さんを座らせるのが原則です。褥瘡とか寝たきりは少なくなりました」

彼がリハビリ医に転向し、攻めのリハビリを主張するのは、褥瘡という非人間的な病態に打ち勝ってやろうという決心をしたからだ。

こんなことがあってはならない。人間を尊重して、幸せな状態にするのが医師としての役目だ。そのためには攻める。立てない患者を立たせる。歩かせる。作業をしてもらう。それも早期にやる。患者が嫌がらないようにおだてて、痛くないように絶妙に動かして、絶対に寝たきりにはしない。そのためにリハビリ医になったのだから……。

病室
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チーム医療はサッカーに似ている

ねりま健育会病院では彼が望むチーム医療が実現できている。

まず、医師は元々の疾患と全身の状態を診療して管理する。看護師、介護福祉士は患者の日々の生活を支える。理学療法士、作業療法士、言語聴覚士はそれぞれの役目を果たして、患者のクオリティ・オブ・ライフを向上させる。

歯科衛生士、薬剤師、管理栄養士は患者の健康状態に合わせた治療、投薬、食事を用意する。そして、各スタッフと患者、家族の間を調整し、コミュニケーションを進めていくのがソーシャルワーカーだ。

ひとりの患者を見守るために同病院では10人がチームとなっている。あと、ひとりいれば、そのままサッカーチームにも移行できる。そうだ。酒向院長はトップの位置でシュートする。ゴールキーパーには理事長を呼んでくればいい。

話は戻る。

院長として病院とスタッフを統括する酒向はさらに経営まで考えなければならないのだから、文字通り、休む暇はない。朝の7時には大泉学園駅に着いて、そこからバスを乗り継いで、速足で歩いて病院にやってくる。病院を出て帰るのは早くても午後8時だ。また、うちに帰ったとしても緊急の連絡には必ず対応する。24時間、年中無休のホスピタリティサービスが彼の仕事だ。