自閉症の人は集団生活が得意でない

そして5年が経ってみると、勇太君は想像以上に自立が進んでいた。グループホームが本当に相応しいのか少し疑問に思える。自閉症の人は集団生活が得意でない。一人でいることが好きである。勇太君もそうだ。それを考えると違う道も選択肢となるかもしれない。

サテライト型グループホームというものがある。これは、本体住居であるグループホームとサテライトの関係にあり、一人暮らしをするというものだ。何か困難があれば本体住居のグループホームから支援員が駆けつけるという形をとる。

このシステムは、将来完全に一人暮らしをするためのワンステップのような位置付けにある。通過型とも呼ばれ、原則3年間と決められているが、これも将来どう変わるか分からない。

勇太君にはサテライト型がいいようにも思えるし、もしかしたら将来、今の自宅で一人暮らしできるかもしれない。日常の家事はほとんどできる。だが、ちょっとイレギュラーなことが起きると対応は難しい。たとえば、家電などが壊れてメーカーに修理を依頼するときなどだ。

悲観することはなかったのだと今なら思える

それでも母はなるべく多くのことを勇太君にやらせている。宅配便の人が来たら、勇太君に対応させる。勇太君は荷物を受け取り印鑑を押す。風呂の掃除もやらせているし、毎日の洗濯もやらせる。自閉症の人は1回教えるとルールを必ず守る。洗濯物は必ずきちんとシワを伸ばして干し、きちんと畳む。網戸の掃除のしかたを教えると、母がそれまで1年に2回だけやっていたものを、2週に1回必ずやるようになった。

母は細かく手出ししないことが大事だと思っている。やらせてみるとできるし、できれば楽しいと思える。そうするとまた新しいことにも挑戦して覚える。

5年前、母の胸には不安があった。将来の就職とか住まいのことが気になった。現在でもそれは完全に解決したわけではないが、あの当時の不安は薄らいでいる。将来への道がうっすらと見通せるようになっているからだ。やってみると、思っていた以上にどうにかなる。それが偽らざる母の心境だった。悲観することはなかったのだと今なら思える。

現在、母は自分の健康管理に今まで以上に気を使っている。健康なまま長く生きたい。勇太君との楽しい時間を少しでも長く継続したい。それが母の思いだ。