「自分はこんなもんじゃない」などと言い訳をしない
藤井聡太の名言
『自分の力は出し切れた』、あるいは『出しきれなかった』などと言われる方もいますが、そのとき出たものが実力の一つだとも思います。
(『考えて、考えて、考える』丹羽宇一郎・藤井聡太著、講談社)
『俺はまだ本気出してないだけ』という青野春秋さんによる漫画があります。2013年には堤真一さん主演で映画化もされています、主人公大黒シズオは15年勤めた会社を40歳で突然退社、漫画家になることを決意します。
父親からは顔を見るたびに説教され、幼馴染からは心配され、娘からも突き放され気味というダメ親父ですが、タイトルも示す通りシズオと周囲の人々の交流を描いたコメディー映画です。
何より笑ってしまうのがタイトルです。人生が思うに任せない時、あるいは試合などで思うような結果が出ない時、「俺が本気を出せばもっとできる」とか、「俺はこんなもんじゃないはずだ」などとつい言い訳をしてしまうことはないでしょうか。そこにあるのは「俺の実力」はもっと上で、実力さえ出せれば仕事も人生もうまくいくし、試合などにも勝てるという一種の負け惜しみです。
藤井聡太は「実力」というのは、集合体のようなもので、平均値以上の実力が出ることもあれば、平均値以下の実力しか出ないこともあると考えています。こう話しています。
「『自分の力は出し切れた』、あるいは『出しきれなかった』などと言われる方もいますが、そのとき出たものが実力の1つだとも思います。多少変動することがあっても、実力とは、その集合体のようにも思います」
つまり、実力には幅があり、上限に近い実力が発揮できる時もあれば、下限に近い実力しか出ないこともあります。それを人によっては「実力以上の力が出た」とか、「実力を出し切れなかった」と云うこともありますが、どちらも含めて、その時に出たものが「実力」だというのが藤井の考え方です。
奨励会二段の時、10月から始まる三段リーグへの挑戦を目指していた藤井ですが、直前の敗北により翌年の4月からの挑戦となります。三段リーグの最終日、二局目は勝利していますが、一局目は負けています、「プレッシャーがあったせいでしょうか」と質問された藤井は「いえいえ、自分の実力不足です」と言い切っています。
なかには極度の緊張やプレッシャーで実力が出しきれなかったと言う人もいるかもしれませんが、藤井は「ここで勝たなければ」という結果を意識したことも含め、それも実力だと捉えています。勝つことも負けることも含めてすべてが実力であり、そう考えてこそ実力を高めるべく努力できるのです。
★ワンポイント 良い結果、悪い結果を含めて「実力」と考える。