呼吸は自分の意識でコントロールできる

それでは、迷走神経を整えるためにはどんな呼吸を意識したら良いのでしょうか。本題に入る前に、呼吸と自律神経の関係から詳しくお伝えしていきましょう。

呼吸は、脈拍や消化・吸収と同じように、自律神経が調整しています。「呼吸するぞ」と意識しなくてもわたしたちは息をしています。寝ているときでも呼吸が止まることはありません。

自分の意識とは関係なく心臓が動いているのと同じように、就寝中でも自律神経がコントロールをして、肺をしっかり動かしているからです。

ただし、呼吸だけは、脈拍や消化・吸収と違うところがあります。たとえば「食べ物の消化を早くして」と思っても、腸の活動が活発になることはありません。脈が速いからといって「ゆっくりにして」と願っても、それはできない相談です。

でも、呼吸は、意識を向けるだけでスピードや深さをコントロールすることができます。つまり、呼吸は人の意識で変えられる、ということです。わたしたちは、緊張するような場面でよく深呼吸をしますよね。意識的に深い呼吸をすると、落ちつきを取り戻すことができるからです。

屋外で深呼吸をする女性
写真=iStock.com/PhotoTalk
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そう、わたしたちは自律神経に支配されているはずの呼吸を自分の意志で調整しているのです。しかも、深呼吸をすることによって「心が整う」ことを、身をもって実感しています。

では、なぜ深呼吸をすると「心が整う」のでしょうか。

「深呼吸」と「心が整う」のメカニズム

この仕組みは、毛細血管の流れを思い浮かべるとわかりやすいでしょう。毛細血管の血液量を計ることができる機械で調べたところ、呼吸を止めた瞬間に毛細血管に血液が流れにくくなることがわかっています。

反対に、呼吸を再開すると毛細血管に血液がよく流れることもわかりました。つまり、緊張したときに深呼吸をすると心が落ちつくのは、毛細血管の血液量が増加するからです。

ゆったりとした深い呼吸をすることで迷走神経が刺激されます。その結果、血管が開いて毛細血管まで血がよく流れていきます。血流が良くなると筋肉が緩んだ状態になるので、体はリラックスします。これが深呼吸をすると心が落ちつく理由です。

このように、わたしたちは知らず知らずのうちに、自律神経の支配下にある呼吸を上手にコントロールして、自律神経を整えています。

ところが、ストレスの多い現代社会では、速くて浅い呼吸が習慣化している人が圧倒的に多くなっています。

それだけではありません。わたしたちに備わっている「心が整う」手段である、ゆったりとした深い呼吸をすることさえ、忘れてしまっているかのようです。禅の世界では、呼吸は「する」のではなく「させていただく」という感覚でいることが重要だと言われています。

ストレスが多く、心と体を乱すさまざまな要素にあふれている時代を生きているからこそ、「させていただく」という気持ちで呼吸を意識することを大事にしたいものです。