自律神経の中でも副交感神経を支配するのが迷走神経だ。しっかり働くと副交感神経の機能が高まり体は安らぎ心も安定し、すこやかに過ごせるという。順天堂大学医学部教授の小林弘幸さんは「迷走神経のはたらきぶりは、“睡眠力”で決まる。睡眠不足や睡眠の質が悪いと脳と心の障害をも引き起こし、認知症の発症リスクを上げることも指摘されている」という――。
※本稿は、小林弘幸『自律神経のなかで最も大切な迷走神経の整え方』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。
「やっぱり睡眠力は大事」と思える健康被害の数々
睡眠力の低下(※)が、健康に与える悪影響ははかりしれません。
※経済協力開発機構(OECD)の調査(21年)では、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、33カ国(平均8時間28分)のなかで最下位
2023年、北海道大学大学院・先端生命科学研究院の研究チームが、北海道寿都町在住の35人の睡眠記録を精査し、睡眠不足が腸内環境にどのような影響を及ぼすか調査した結果を報告しました。これによると、睡眠時間が短い人ほど、「αディフェンシン」という物質の分泌量が減少することがわかりました。この物質が減少すると、腸内環境が大きく乱れることになります。
αディフェンシンはある腸内細菌が食物繊維をエサにして作り出した物質で、腸内に侵入した病原体を攻撃するはたらきを持っています。
これは、免疫力を高めてくれる善玉菌にも影響を与えていると言います。睡眠ホルモンと呼ばれる「メラトニン」という言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。このメラトニンは、幸せホルモン「セロトニン」を材料にしてつくられます。セロトニンの約90%が腸で作られています。つまり、腸内環境が悪化すると、メラトニンがうまく作られなくなるのです。
こうして腸内環境が乱れると、さらに睡眠力を下げるという負の連鎖に陥ります。
腸内環境だけでなく、寝不足によって血管も大きなダメージを受けます。良い睡眠がとれていないと、本来、血管を拡張させる副交感神経が機能せずに、交感神経が優位の状態になります。