自律神経の乱れを放置すると、心身の不調や病気を招くこともある。順天堂大学医学部教授の小林弘幸さんは「自律神経を整えるにはまず迷走神経を整えるといい。そのために、正しい呼吸法を身に付けることが重要です」という――。

※本稿は、小林弘幸『自律神経のなかで最も大切な迷走神経の整え方』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

口を開けて寝ている男性
写真=iStock.com/Paolo Cordoni
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ヘルシーな生活の要「迷走神経」を整える呼吸法

呼吸はどのようにして迷走神経を整えるのでしょうか。その方法をお伝えする前に、胸を張った姿勢で、両手の指先を鎖骨の下に置いてみてください。

大きく深い呼吸をすると、皮膚が盛り上がるのを指先に感じるはずです。肺が大きく膨らんで、周辺の筋肉を動かしているからです。肺は、鎖骨の奥にある「肺尖はいせん」から肋骨の下にある「肺底はいてい」まであり、胸の大部分を占める臓器です。♡

あなたは、普段からこの大きな肺をしっかり使って、呼吸をしているでしょうか。

鎖骨のあたりが盛り上がるほど深い呼吸をしているでしょうか。呼吸の重要性を、アニメ『鬼滅の刃』で、主人公・炭治郞が鬼と対峙たいじし、技を繰り出す前に行なう「全集中の呼吸」で考えてみましょう。

この「全集中の呼吸」は作中で、『体の隅々の細胞まで酸素が行き渡るよう、長い呼吸を意識しろ。体の自然治癒力を高め、精神の安定化と活性化をもたらす』あるいは、『血の中にたくさん、たくさん空気を取り込んで、血がびっくりしたとき、骨と筋肉があわてて熱くなって強くなる』という説明がなされていました。

健康とは「一つ一つの細胞にどれだけ質の良い血液を送ることができるか」と、つねづね語っているわたしにとって、この「全集中の呼吸」の考え方は、とても理にかなっていると言えます。

日ごろ、わたしたちは呼吸を意識することなく過ごしているので、その重要性を忘れてしまいがちです。生きていくためにはエネルギーが絶対に必要ですが、そこには、呼吸が重要なはたらきをしていることを知らない人も少なくありません。

人や動物は、食べ物から栄養を吸収しなければ生きていけません。食べ物は唾液や消化液によって分解され、吸収されやすいブドウ糖などの栄養に変わり、腸で血液のなかに取り込まれています。

しかし、栄養を吸収するだけではエネルギーにはなりません。呼吸によって取り入れた酸素と栄養が結びつくことによって、はじめて生きるためのエネルギーを生み出しているからです。

わたしたちは、1分間に12〜20回、呼吸をしています。一日では2万〜2万5000回も息を吸ったり吐いたりしています。呼吸は、酸素と栄養を結びつけて、全身に血液を行き渡らせるという重要なはたらきだけでなく、心を落ちつかせるというはたらきもあります。

これは、呼吸が自律神経と深く関係しているからです。鎖骨あたりが盛り上がるように肺全体を意識して使った呼吸で自律神経が整います。もっと言えば、ゆったりとした深い呼吸で、迷走神経が刺激され、心も体も整っていくのです。