睡眠不足は、脳と心の障害をも引き起こす
さらに、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所が発表した「睡眠不足による精神面に与える影響についての調査」(13年)でも興味深い結果がみられています。
この実験では、健康な男性に「8時間」と「4時間」で睡眠時間を分けて調べたところ、「4時間」の人には、道徳的行動が低下していたことがわかりました。
つまり、睡眠が足りないことで、社会的な善悪の判断力などを低下させる可能性があるということです。睡眠不足は、脳のなかでもとくにネガティブな情動刺激に反応する「扁桃体」を活性化させてしまいます。「怒りの発生源」とも言われる扁桃体が強くはたらくことで、善悪の判断がつかないような横柄な振るまいをしてしまうかもしれません。
パワハラやカスハラ(カスタマーハラスメント)など、ハラスメントをくり返す不愉快な人は、良い睡眠ができてないことが背景にあるのかもしれません。また、睡眠不足が、うつ病を引き起こしやすくなることは広く知られています。うつ病患者の約9割に、なんらかの睡眠障害があるとも言われているくらいです。
さらに、しっかり眠れていないと認知症の発症リスクを上げることも指摘されています。
認知症の6割を占めるアルツハイマー型認知症は「アミロイドβ」というたんぱく質の「ゴミ」が原因の一つと考えられています。脳には脳脊髄液という液体が流れていて、本来、アミロイドβなどの毒素は洗い流されていきます。そして、驚くべきことに、睡眠中のその排出速度は、起きているときの2倍以上と言われています。
ちなみに、脳のゴミを排出するスピードがアップするのは、寝ているときのなかでも「ノンレム睡眠」の間です。ここで「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」について少し解説しておきましょう。
レム睡眠とは、浅い眠りで、体は眠っていますが、脳は活発に動いている状態。眼球もキョロキョロ動いているし、夢もみます。
わかりやすく言うと、レム睡眠は、「体の緊張をとるための眠り」です。一方、ノンレム睡眠は深い眠りのこと。しっかり脳が休んでいる状態で、眼球も動きませんし、夢もみないとされています。
言わば、ノンレム睡眠は「脳を休ませる眠り」です。睡眠は、レム睡眠とノンレム睡眠を1セット(約90分)にして4~5回くり返していますが、眠りに入ると、まずノンレム睡眠から始まります。
この最初に訪れるノンレム睡眠が、一晩のなかでもっとも眠りが深くなる時間です。その後、ノンレム睡眠とレム睡眠をくり返しながら、徐々に眠りが浅くなり朝を迎えます。
睡眠中は、迷走神経(※)を含む副交感神経が優位になりますが、正確には、ノンレム睡眠のときと考えて良いでしょう。レム睡眠では、血圧や心拍数、呼吸など、大きく変動するほど交感神経もしっかりはたらいています。
※迷走神経は自律神経のなかでも、副交感神経を支配する重要な神経。体中を巡っており、脳からの指令を臓器に伝え、内臓の状態を脳に伝える役割。しっかりはたらくと副交感神経の機能が高まり、体は安らぎ、心は安定。すこやかに過ごすことができる。
迷走神経を整えるためには、寝ついてすぐに突入するいちばん深い眠りを活用したいものです。