ドイツ中部に位置する歴史豊かな都市、ワイマール。文豪ゲーテが暮らした邸宅に程近い「カフェ・ラバッツァ」は、過去に生き続けることを決めているらしい。この店では、現金による支払いしか受け付けていない。
古くさくて不便な支払い方法にも思えるが、ドイツでは今も現金が愛され続けている。ドイツの中央銀行であるドイツ連邦銀行の最新の調査によると、ドイツ人はモノとサービスの購入の60%近くを現金で行っている。
この状況は世界の潮流に反するように見える。イギリスでは、向こう10年以内に現金による支払いの割合は6%まで減る見通しだ。オランダでは昨年のデータによると、店頭での支払いに占める現金の割合が11%にすぎなかった。
ヨーロッパだけではない。中国では、店頭での支払いのうち現金によるものは8%だけ。インドでもここ数年で現金の使用が大幅に減っており、昨年には27%にまで落ち込んでいる。
しかし、ドイツでは事情が大きく異なる。プライバシー保護への懸念、巨大テクノロジー企業への不信感、そして政治的・金融的危機で一夜にして銀行預金が消滅することへの不安により、ドイツの人々は現金を好む傾向が強い。
ドイツ人は借金を嫌う
そのような感覚は、自転車旅行中にワイマールに立ち寄っていた中西部ヘッセン州の中年の友達グループ――アルノルト、マリア、エリザベート、ハラルトの4人組――も持っていた(いずれもフルネームを明かすことは拒んだ)。
「現金しか信用できない」と、エリザベートはきっぱり語った。アルノルトに言わせれば、現金で支払うことにより使いすぎを防ぎ、自分の支出をコントロールできる。さらに現金であれば、どこで金を使ったかという詳細を把握されずに済むと、アルノルトは言う。「カードだと、銀行に全て筒抜けだ」
ハラルトも同じ考えだ。デジタルな方法で支払うと、「監視されているように感じる」というのだ。
とはいえ、スウェーデンのようにほぼ完全にキャッシュレスに移行している国もあるなかで、現金を好み続けることがドイツ経済に悪影響を及ぼすことはないのか。その影響は、思いのほか少ないのかもしれない。
ドイツ人は、平均して100ユーロを超える現金を持ち歩いている。この金額は、ほかの大半の先進国よりかなり多い。ドイツ連銀の調査によると、現金の使用率は2017年の74%から下がっているものの、調査に回答したドイツ人の69%は、今後も現金を支払いに使用し続けるつもりだと述べている。