デジタルユーロへの不安
現金払いを抑制する規制は、ドイツでは政治的に不人気と見なされている。ドイツの人々は専門家も含め、折り畳んだユーロ札をポケットや財布に入れて持ち歩くことに何の不便さも感じていない。
だがデジタルユーロを導入すれば、現金の製造・保管・輸送コストを削減できる。複数の銀行が仲介する電子決済と異なり、金融仲介機関に縛られることはなく、銀行口座すら必要なくなる。デジタルユーロは「デジタル化された世界において、中央銀行発行通貨に現金と並ぶアクセス性と使いやすさ」を保証するものだと、バルツは言う。
「現在、ECB(欧州中央銀行)はデジタルユーロに関する2年間の調査フェーズを終えつつあり、(ECBの)政策理事会が今年秋に決定を下せば、次の準備フェーズに移行する可能性がある」
少なくとも一部の民間銀行は、デジタルユーロの決済は追跡可能であり、マネーロンダリング防止に役立つ可能性もあるが、個人のプライバシーが何らかの形で侵害されることは避けられないとみている。さらに金融機関への預金が減少し、銀行の融資能力に影響が出る恐れもある。
モノとサービスのオンライン購入は17年の6%から、コロナ禍中の昨年には24%まで上昇したが、今のところパンデミックもデジタル化も、ドイツ人から見た現金の魅力と快適さを消し去ってはいない。ドイツの銀行業界はカード決済の年率2%成長と、現金払いの同3%減少を予測しているが、それでも30年の時点でドイツ人は全取引の少なくとも30%を現金に頼り続けることになる。
当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら