「犯罪を助長」は誤り
一方、現金主義は地下経済を蔓延させるとよく言われるが、大半の専門家は誇張に近い議論だと語る。技術評価局の報告書は、スイス、オランダ、フランスなど現金払いの少ない国は現金使用率の高いスペイン、イタリア、ギリシャなどに比べて地下経済が活発ではないと指摘しているが、一方で現金の使用が少ないスウェーデンの地下経済は「中規模」であり、現金使用率が比較的高いオーストリアとドイツの地下経済は相対的に小さいという。
ドイツ連銀が19年、オーストリアのヨハネス・ケプラー大学(リンツ)のフリードリヒ・シュナイダー教授(財政学)と共同で行ったドイツにおける「不正な現金使用」の研究によれば、より詳細な分析を行わない限り「価値の保存手段として合法かつ正当に自宅で保管される紙幣と、不正な紙幣を区別することは不可能」だ。ドイツ人は平均1300ユーロ以上を自宅または貸金庫に保管している。
「地下経済の規模はGDPの2~17%と推定される」と、この研究報告は指摘する。「この数字だけでも、地下経済の研究は平均以上の不確実性を伴い、慎重な解釈が必要であることが分かる」
「現金は地下経済を助長していないし、その原因でもない。原因は税負担や規制などだ」と、シュナイダーは語った。
税負担が重ければ重いほど、脱税の強い動機付けになると、シュナイダーは言う。現在は「多額の現金で国外に銀行口座を開設するのが極めて困難」になっているので、現金主義と脱税の関連性は以前のほうが強かったと、彼は述べている。
ノイベルガーは、現金よりもデジタル通貨を使った犯罪行為のほうがはるかに多いと主張する。「現在、違法な薬物取引の理想的な媒介手段は現金ではない。アマゾンのギフトカードだ。この種のギフトトークンは世界中どこでも匿名で支払いが可能であり、現金と違って対面取引を必要としない」
ドイツ連銀のブルクハルト・バルツ理事は取材に対し、政府は現金使用を減らす施策を取っていないと指摘した上で、現金は「停電やソフトウエアのエラーなどでキャッシュレス決済が一時的に使えなくなった場合の優れたバックアップ手段になる」と語った。