アメリカ、ロシア、EUはじめ国際社会は即座にアゼルバイジャンに作戦中止を呼びかけた。アントニー・ブリンケン米国務長官はアゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領と電話で協議し、「アゼルバイジャンに対し、ナゴルノカラバフにおける軍事行動の即時停止と事態の沈静化を促した」と米国務省が発表した。

ロシア外務省は、「われわれは紛争の両当事者に対し、今すぐ流血の惨事を止め、交戦行為を停止し、民間人の犠牲をなくすよう求めた」と述べた。

今回の攻撃は、ナゴルノカラバフ紛争がさらに激烈な新局面に突入する引き金となりかねない。2020年に起きた衝突はアゼルバイジャン側の勝利で終わった。1990年代に両国が旧ソ連から独立して以来、2度目の大規模な戦闘だった。

2020年の停戦協定で、ロシアの平和維持部隊はアルメニアとナゴルノカラバフを結ぶ唯一の幹線道路であるラチン回廊道沿いに展開することになったが、ロシア軍はこの道路を守りきれなかった。アゼルバイジャン軍は昨年12月この道路を封鎖。ナゴルノカラバフに住むアルメニア人は外界から孤立し、食料や医薬品不足にあえぐことになった。

ロシアは長年にわたりアルメニアを影響下に置き、それを足がかりとして、広く南カフカス地域全体を勢力圏に組み込もうとしてきた。そのためアルメニアに軍事基地を置き、CSTOの同盟国として軍事支援を行ってきた。ロシアはアルメニアの最大の武器供与国だ。

だが今やロシアは及び腰で、アルメニア側では不信感が募っている。

「ロシアに頼り過ぎたのは誤りだった」

アルメニアのパシニャン首相は今月、アゼルバイジャン軍の攻撃開始前の段階で、ロシア軍の庇護に頼りすぎたことは間違いだったと悔やんだ。「アルメニアの安全保障体制は武器弾薬の購入も含め、99.999%ロシア頼みだった」と、パシニャンはイタリアの有力紙レプブリカに語った。

「だが今はロシア自体が(ウクライナ戦争で)武器弾薬を必要としている。この状況では、たとえロシアにその気があっても、アルメニアの防衛ニーズに応えられないことは理解できる。この例からわれわれは学ばなければならない。安全保障でただ1国のパートナーを頼りにするのは戦略的なミスだ」

アルメニア安全保障会議のアルメン・グリゴリアン書記は9月20日、集団防衛の義務を怠ったロシアに不信感を露わにし、「ロシアは長年、アゼルバイジャンと手を組んできた」と言い切った。

「その証拠に、ロシアの平和維持部隊にはナゴルノカラバフを守る義務が明らかにあるにもかかわらず、アゼルバイジャン軍が攻撃してきたときに何ら行動を起こそうとしなかった」

本誌はこの件についてロシア国防省にメールでコメントを求めている。

<追記>アゼルバイジャンとナゴルノカラバフのアルメニア系勢力は9月20日、停戦で合意した。武装解除やアルメニア軍の撤退も受け入れ、アルメニア側の事実上の敗北だった。死者は200人、停戦後も散発的な攻撃や非難の応酬が続いている。

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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