話題の「牛乳貧血」とは何か

ちなみに、Instagramには「牛乳貧血」という言葉がたくさんありました。これは医学用語ではないものの医学雑誌などでも使われる言葉で、牛乳を大量に飲むことによって他の飲み物・食べ物をとれなくなって進行した「鉄欠乏性貧血」のことを指します。

小児科の医学雑誌で報告されている「牛乳貧血」の場合、1歳前後の子が毎日800〜1500mlの牛乳を飲んでいたとのこと。その時期の平均体重は約9kgですから、大人の体重に換算すると4〜10.5Lの牛乳を毎日飲むようなものです。ものすごい量ですね。なかなかそんなにたくさんは飲めないでしょう。当然、胃に他の食べ物が入る余地がなくなった結果、鉄が不足して貧血になります。でも、大量に牛乳ばかり飲まなければ問題ありません。特に鉄欠乏性貧血の好発年齢である生後9カ月〜2歳、そして第二次性徴期(女の子は10歳ごろから、男の子は11歳ごろから)には気をつけましょう。

また、Instagramには「牛乳に含まれるカルシウム、カゼイン、リンが鉄の吸収を阻害するので、子供が1日に600ml飲むと牛乳貧血になる」という説もありました。確かに多量のカルシウムは鉄の吸収を阻害しますが、ゼロにするわけではありません。カゼインやリンが鉄の吸収を阻害するという文献は見つかりませんでした。他にも鉄の吸収を阻害するものはタンニン、ポリフェノール、フィチン酸などがありますが、これらも鉄をまったく吸収しなくなるわけではないし、それぞれが含まれる食品は健康上の利点がありますから、バランスや組み合わせが大事ですね。また、適度な牛乳の量は、年齢によって大きく違いますから、一様に600mlと書いてある時点でおかしいでしょう。

乳牛
写真=iStock.com/kamisoka
※写真はイメージです

他にもある牛乳に関するデマ

そのほか、「牛乳の飲ませすぎは危険」などと、なぜか牛乳が危険な食品かのように煽る、おかしな投稿がたくさんありました。例えば、次のようなものです。

「日本人にはラクターゼがないため、牛乳のカルシウムが摂れず腸炎になる」
ラクターゼは乳糖分解酵素なので、カルシウムの吸収には関係ありません。また、牛乳に含まれるカルシウムは腸に炎症を起こしません。たぶん日本人の一部には、ラクターゼを持たないために牛乳を飲むと下痢などを起こす「乳糖不耐症」がみられることを誤解しているのでしょう。

「牛乳を飲むと骨がもろくなる」
カルシウムの豊富な牛乳を飲んだ結果、骨がもろくなることはありません(※1)。多くの研究で、牛乳は成長期には骨量を増加させ、中高年期には骨量の減少を抑制するという結果が出ています。昔から「スウェーデン人を対象とした研究では骨折が増え、寿命が短くなった」という説がありますがデマです。

「乳牛の搾乳量を増やすために成長ホルモンを使っている」
これも根拠のない説です。乳牛に使う成長ホルモンはアメリカで開発され、世界20カ国で使用されていますが、日本では認可されていません(※2)

「牛乳を飲むとアテローム血栓症になる」
牛乳中の脂肪は製造過程で過酸化脂質になるため、血管壁に「アテローム」を作り、血流を妨げて血栓症になるという説。牛乳が特にアテロームや血栓を作りやすいということはありません。また似た説に「ホモゲナイズ(均質化)された牛乳は、乳脂肪が酸化していて体に悪い」という説もありますが、牛乳の製造過程で不飽和脂肪酸が過酸化水素と結びついて過酸化脂質になることはありません(※3)

「牛乳に含まれるカゼインは発がん性物質」
発がん性物質とは、がんを引き起こす原因となりやすい物質のこと。カゼインは、がんを起こしやすい物質ではありません(※4)。またカゼインは消化しづらいといわれていますが、そんなこともありません(※5)

※1 一般社団法人Jミルク「ウワサ5 牛乳を飲みすぎると骨粗鬆症になる
※2 農林水産省「肥育ホルモンについて
※3 一般社団法人Jミルク「ウワサ1 ホモゲナイズされた牛乳の乳脂肪は“錆びた脂”
※4 厚生労働省「発がん性物質
※5 一般社団法人Jミルク「ウワサ8 牛乳は胃の中で固まるので消化が悪い