<残虐の歴史を葬った教科書にのぞくプーチンの世界観:アレクセイ・コバリョフ>
冬のロシアの校舎
写真=iStock.com/Nikita Shevchenko
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ロシア(とロシアの不当な占領下にあるウクライナの一部地域)でも去る9月1日に新学期が始まり、高校1年生と2年生に新しい何冊かの教科書が配られた。

なかでも注目すべきは高2の『ロシア史』だ。ウクライナにおける、いわゆる「特別軍事作戦」を正当化するため、クレムリン(ロシア大統領府)の命を受けて、慌てて書き上げたものに違いない。クレムリンは長年にわたり、ロシアとその前身であるソ連の過去を書き換え、史実を隠して愛国心を刷り込もうと努めてきた。その最新版がこの『ロシア史』だと言える。

1945年から今日までを扱う現代史の教科書だが、その意図するところはただ一つ。2022年2月24日に始まった対ウクライナ戦に関するクレムリン流の解釈を次の世代に刷り込むことにある。

その記述がネット上に流出したのは今年8月初旬のこと。西側の専門家や亡命ロシア人からは非難の声が上がった。従来は国内でも許容されていた事実を含め、歴史の改ざんだらけだからだ。

残虐なウクライナ戦を美化する最終章に注目が集まるのは当然として、全体として見ても現政権のウクライナに対する執着が際立っている。

400ページを超す分厚い本だが、ウクライナに対する言及はずば抜けて多い。ウクライナはロシア史の核心にあるという見解を押し出し、ウクライナの独立やヨーロッパとの結託は「論外」で、「文明の終焉しゅうえん」につながるとされる。

陰謀論がてんこ盛り

ちなみに編者のウラジーミル・メジンスキーは歴史家ではない。ウラジーミル・プーチン大統領の下で文化相を務めたプロパガンダのプロで、「ロシアの国益を損なう歴史改ざんに対抗する大統領委員会」の一員として、ひたすらプーチン体制の美化に取り組んできた人物だ。

ロシアは常に外敵に包囲され、悪者扱いされてきたというゆがんだ歴史観は旧ソ連譲りのものだが、この教科書はさらに踏み込んで、第2次大戦(ロシアでは「大祖国戦争」と呼ぶ)でナチス・ドイツを撃破したのは自分たちなのに、その後は西側諸国とその同盟国に裏切られてばかりいると主張する。

その一方、スターリン時代の悪名高い大量虐殺や強制移住、政治犯の収監、大量粛清などにはほとんど触れていない。何らかの言及があっても、必ず残虐行為を否定し、悪いのは犠牲者(または西側諸国)だとする注釈が付く。