テスラやアップルなど中国市場で稼ぐグローバル企業は数多い。ジャーナリストの福島香織さんは「グローバル企業としては、地政学リスクは気になるものの、まだ中国を利用したいと思っているのだろう。だが、人権や言論の自由を無視する習近平政権のもとで、ビジネスを展開するのはリスクが大きい」という――。

※本稿は、福島香織『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房)の一部を再編集したものです。

中国とアメリカの協力
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米中の対立とビジネスはまた別(※写真はイメージです)

イーロン・マスク氏の「3年ぶり訪中」が意味するもの

テスラのCEOイーロン・マスク氏が2023年5月末、3年ぶりに中国を訪問し、北京当局から破格の待遇を受けた。

シンガポールで開かれるアジア安全保障会議(2~4日)に合わせて米側が要請していたオースティン米国防長官と中国の李尚福国務委員兼国防相の会談を、中国が拒否し、米中関係の改善の行方には絶望的な観測が逃れている一方で、マスクは中国の主要官僚と次々に面会してみせた。

中国はマスク氏を篭絡ろうらくして利用しようとしているのか、それとも政治関係、安全保障方面での対立は先鋭化していても、米中のビジネス関係はまた別だ、ということなのか。

まだ中国に賭けようとしている

少なくとも一部のグローバル企業のトップたちは、中国習近平新時代の経済政策のひどい現状を目の当たりにしながらも、まだ中国に賭けようとしている。

マスク氏の訪中はわずか3日間という短期間であるが、マスクが面会した中国官僚の数は、米国の政治家や官僚の訪中のときよりも多かった。

イーロン・マスク氏と秦剛元外相
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イーロン・マスク氏と秦剛元外相(2023年5月31日、北京)

マスク氏は5月30日に北京へ到着し、秦剛外相(当時、以下同)と会談。

31日には王文濤商務相、金壮竜工業情報化相と会見した。

さらに31日午後、丁薛祥副首相と会談。この時の会談内容は完全に非公開だった。

丁薛祥は政治局常務委員(最高指導部メンバー)であり、党内序列6位の大物。丁薛祥としては外国企業CEOとの初の会談であり、これは中国がいかにテスラとの関係を重視しているかのあらわれとも言えた。