※本稿は、山本直人『聞いてはいけない スルーしていい職場言葉』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
新入社員に「迷惑をかけるな」と言ってはいけない
会社員時代に、とても丁寧に仕事をする後輩がいました。彼がチームに入ってから、関係部署との連絡やデータの整備などはすべて任せることができたので、私は業務の全体設計やコンテンツの開発をおこなうことに専念できました。
彼の仕事ぶりは、全く問題なく安心感があります。多忙な時期には相当苦労をかけますが、私が先に帰ってもきちんと仕上げてくれます。
仕事という面では十二分に「できる」のですが、そのうち気になることが出てきました。まず、周囲の人から頼られるあまりに、段々と彼の仕事が増えていくのです。逆に言えば、周囲が徐々にラクをするようになっていく。しかし、そのことに互いに気づいているわけではありません。
しかも彼は、何か問題がありそうだと先手を打って準備をしたり、根回ししたりもします。これは素晴らしいことで、いわゆる「隠れたファインプレー」というわけです。
野球やサッカーでも、派手なプレーは目を引きます。一方で、「気がついたらプレーヤーがいてボールを押さえている」ようなプレーは、玄人受けはしますが、目立たないこともあります。
仕事は回っても、新しいことは生まれない
仕事はたしかに、回る。その一方で、彼がしだいに疲れていくのがわかります。体力はあるし健康上の問題にはならなくても、「新しいことに取り組む」ような気持ちが薄れていくのです。
そこで、彼にこんなアドバイスをしました。
「仕事する時って、もっと、人に迷惑かけていいから」
こういうことを言われたことはなかったでしょうから、あまりピンと来ていないようだったので、説明をします。
「すべてきちんとしようとした上に先回りし過ぎると、いまのことだけで疲弊するから。自分ですべてしないで、人を動かした上で余力を持たないと、『次のこと』ができなくなるよ」
「次のこと」というのは、将来に向けたプランを立案したり、そのための勉強をしたりすることです。それがないと、会社はずっと同じところに留まり続けることになりますから、前に進むためには当然最重視するべきだと考えます。そのためには、まず「迷惑をかけろ」と言ったのです。
「いまのするべきこと」がきちんと回っていくのは、心地いいものです。みんなが役割分担を守っていれば、たしかにビジネスは回っていきます。ところがここに落とし穴があるのではないでしょうか。