いわゆる職業の生態を描いたこの本では、コピーライター、ファッション・デザイナーなどの「ギョーカイ人」から、弁護士、商社マンまで三一の職業を取り上げました。そして、そんな中には「主婦」という章もあったのです。
他の職業は[金][ビ]の二分ですが、主婦はあまりにも対象が多いということで四つに分けています。一番「上」なのが、[金]の[金]で、そこから[ビ]の[ビ]まで四つの「階層」に分けてその生態が描かれます。そして、それぞれの「子育てのモットー」という項があるのですが、これを順番に並べてみると、実に興味深いことが見えてくるのです。
こんな感じです。
[金]の[ビ] はなやかな女の子に。
[ビ]の[金] リーダーシップのとれる子に。
[ビ]の[ビ] あいさつのきちんとできる子。人に迷惑をかけない子。だれからも愛される子。好き嫌いのない子。元気な子。
今も昔も、仕事を選り好みしない、元気のいい若手は重宝される
これを見ていてふと気づいたのは、四番目のモットーには、いかにも日本企業が社員に言いそうなことが並んでいるということです。
新入社員には、まず挨拶を教えて、「迷惑をかけずに」協調し、取引先や先輩に可愛がられることを求めます。仕事を選り好みしない、元気のいい若手は重宝されます。ちなみに四番目の[ビ]の[ビ]のグループも、そのプロファイルを見ると当時の典型的な中流であることがわかります。夫は航空会社の地上勤務で、東京の山の手エリアに住んでいます。
そう考えてみると、この子育てのモットーは当時の日本企業で受け入れられるためにちょうど良かったのかもしれません。
一方で、一つ上のグループが重視するのは「リーダーシップ」ですが、これこそこの三〇年ほど日本企業において重要なテーマとされてきた一つです。役職によるマネジメントではなく、人としてのリーダーシップを身につけることは今でも大きな課題ですが、逆に言うとそうした人材は希少ともいえます。
「人に迷惑をかけるな」という言葉は聞き流したほうがいい
さらに、上位二つのグループでは、「らしさ」だけを強調しています。今や男らしさや女らしさを求める企業はないと思いますが、伸びている企業は社員が自分の力を信じて行動しています。
先の坪田氏の著作でも指摘されていることを考え合わせると、「迷惑をかけるな」はいまでも日本の子育てで言われることが多いようですし、企業においても同様だと思います。
一方で、新しいことを開拓していく時には、自分らしさや主体性を大事にしてリーダーシップを発揮するということが大切になるでしょう。
四〇年前の『金魂巻』の記述から日本企業の人材の課題を読み取るのはやや飛躍があるかもしれません。しかし、「人に迷惑をかけるな」という言葉の持つ潜在的な問題はなかなか根深いのではないでしょうか。
子育てから社員育成に至るまで、さまざまな局面で考え直す時期だと思うのです。