※本稿は、田村秀男『米中通貨戦争』(育鵬社)の一部を再編集したものです。
日本はいつまで「日中友好」路線を続けるのか
林芳正外相ら親中派の思考は1972年の日中国交正常化以来の「日中友好」路線から外れないままだ。米国の対中政策は「協調」から「競争」、「融和」から「警戒」へと変わってきたというのにである。
2017年発足のトランプ政権は中国の不公正貿易慣行に対して制裁関税を発動し、中国通信機器大手のファーウエイなどを米市場から締め出した。2021年からのバイデン政権は半導体関連などハイテク輸出規制を強め、日欧に同調を求めている。
米国の同盟国日本としては米側に同調しつつも中国市場も重視する両にらみ路線だが、もはやそうも言っていられなくなった。転機はロシアによるウクライナ戦争である。
習近平党総書記・国家主席はプーチン大統領と2022年2月の北京冬季五輪の際の会談で「限りない友情と強力」を約束済みだ。習政権は独善的な理由を根拠に、民主主義体制の台湾の併合に向けいつ軍事侵攻に転じてもおかしくない。
中国経済の致命的な弱点は「外貨依存」
折りも折り、中国では2022年から不動産バブル崩壊が始まり、住宅など不動産投資主導の経済モデルが行き詰まりつつある。習政権は2022年秋の党大会、そして2023年3月初旬の全国人民代表大会(全人代)を通じて、党が経済と金融政策を直接指揮する体制へと移行した。
中国の金融は海外の投資家や企業が持ち込む外貨に大きく依存している。中国経済の致命的な弱点である。習政権は党主導でそれを克服しようと狙い、外資を繋ぎとめるためには手段を選ばない。外国人拘束は言うに及ばず、外国企業のサプライチェーンからの締め出しや相手国への部品・原材料の供給停止、輸入禁止などだ。
図表1は外国の対中証券投資と直接投資の推移で、日本円換算で表示している。目立つのは、2022年2月のウクライナ戦争勃発後、海外からの対中証券投資が減少に転じたことだ。リスクに敏感で逃げ足の速い株や債券の投資家は腰が引けたままだ。
巨額の貿易黒字だけでは、拡大中華経済圏構想「一帯一路」などの対外投資資金を十分賄えず、海外からの証券投資に頼ってきただけに痛い。