「工作機械受注31.7%減」が意味するもの
わが国の工作機械統計(日本工作機械工業会が作成、発表)によると、7月の受注額(内外受合計、速報)は前年同月比20%減の1143億円だった。特に目立ったのは、中国からの受注減少だ。今年4~6月期の確報では、中国からの受注は684億7600万円、前年同期比31.7%減少した。
リーマンショック後、中国は不動産などの投資を積み増すことで、政策的に経済成長率を引き上げた。習近平政権は、世界トップクラスの半導体製造技術などの習得を目指し(中国製造2025)、わが国企業への工作機械の受注が増えた。
しかし、足許、中国の不動産バブルは崩壊しつつある。不動産業界、地方政府、その傘下企業の“地方融資平台(LGFV)”などの債務問題は深刻だ。理財消費や信託商品のデフォルト懸念も高まった。債務返済を急ぎ、貯蓄を増やそうとする家計や企業は増え(バランスシート調整)、物価が持続的に下落するデフレ圧力も高まった。
大手不動産開発企業の恒大集団(エバーグランデ)の経営状態を見ると、不動産バブルの後始末などの問題はさらに深刻化する懸念がある。景気低迷に対応するため、中国で事業を運営する企業は設備投資を絞ることになるはずだ。それは、世界経済の足を引っ張ることになるだろう。中国向け工作機械受注額の減少は、それを明確に示しているといえる。
“中国製造2025”のために大量に買っていたが…
わが国の工作機械受注は、中国経済の環境変化を確認する一つの重要な視点になるだろう。わが国企業が製作する、工場の自動化(ファクトリー・オートメーション、FA)用の産業用ロボット、切削や金型の加工機、制御機器、半導体製造装置などは、中国経済にとって重要なツールとしての役割を果たしてきた。
リーマンショック後の2008年11月、共産党政権は4兆元(当時の円換算金額で56兆円程度)の経済対策を打ち出した。家電や自動車の需要喚起策に加え、住宅供給も増えた。不動産投資の増加で地方政府は土地譲渡益を獲得し、景気が軟化した場合に機動的にインフラ投資を実行しやすくなった。投資牽引型の経済構造が出来上がった。
共産党政権は産業補助金も支給した。それは、固定資産投資(企業の設備投資など)をサポートした。2015年からは、半導体など先端分野で世界トップの製造技術実現を目指す産業政策、“中国製造2025”、も始まった。中国はわが国の工作機械メーカーから半導体製造装置やロボットなどを大量に買った。