人民を消耗品とみなしている
だが今は21世紀である。大卒や高専の若者の失業が問題視され、「躺平主義」(寝そべり主義)が蔓延している。働かないこと、競争しないこと、努力しないことが一種の体制への反抗のスタイルになっている状況で、機械や専門知識を使わない肉体労働の雇用を創出したところで、失業対策、貧困対策になるだろうか。
たんに地方汚職の温床を一つ増やすだけにならないか。
「人鉱」という最近の流行語があるが、共産党政府は人民をあたかも鉱物のように無限に採掘できる消耗品とみなしている、中国の人民は「以工代賑」にそうしたイメージを持っているようだ。
「経済ブレーンが知恵を絞った結果」がこれなのか
この「以工代賑」政策の責任者は、当時の発展改革委員会主任である何立峰だ。第20回党大会で政治局メンバーとなり、のち3月の全人代で経済・金融担当の副首相、つまり劉鶴の後釜に収まった。つまり、習近平の新たな経済ブレーンである。
この新版「以工代賑」こそが、習近平の経済ブレーンの知恵を絞った政策というなら、習近平第3期目の経済展望は推して知るべしだ。
習近平はこの10年で、「国進民退」(国有企業を進化させ、民営企業を後退させる)という毛沢東時代の経済計画的な発想を、「混合経済」という新しい言葉を用いて推し進め、優秀な民営企業への支配を強化してきた。
また「共同富裕」というスローガンを掲げ、経済のパイを大きくし、平等に富を分配することを重視するようになった。
勢いのあった民営企業家は、独占禁止法違反などで罰金をとられ、寄付を要求され、従順でなければ汚職など経済犯罪で身柄を拘束され、重刑に処された。
かつて金持ちは庶民の憧れであり、誰もがいつかは自分も金持ちになろうと夢を抱いたが、今や金持ちは庶民の敵である。金持ちになろうという夢を抱くよりも、金持ちたちを打倒し、彼らが失脚することに喜びを感じる人が増えている。
習近平の毛沢東回帰的な計画経済的政策や共同富裕思想とは、人民に知識や情報を持たせず、共産党の指導に疑問を持たない従順な労働者のままにしておきたい、ということに他ならない。
時代遅れの「以工代賑」政策が習近平第3期スタート早々に打ち出されたことで、経済の逆走路線が維持され、毛沢東時代への回帰どころか、1000年前の皇帝養民の時代に回帰しそうな勢いなのである。