「おから工事」が量産される
また、機械や熟練の専門施工業者を使わなければ、工事の効率やクオリティが犠牲になる。
中国の地方では「おから工事」と呼ばれる脆弱な建物やインフラが多く見られるが、それが量産されるのでは、という懸念もある。
もともと、中国における「以工代賑」は、儒教思想の「養民」の発想だ。
災害・飢饉などで農村のコミュニティが崩壊すると、飢えた難民流民が良からぬことをする、それがしばしば社会動乱を引き起こし王朝の転換を引き起こしてきた。その歴史から、為政者は民を養うことに腐心してきた。
「ボートレース開催で危機を脱した」中国の歴史
中国史で有名なのは北宋の官僚政治家で文人の范仲淹によって行われた「以工代賑」だ。全国的に飢饉が発生したときに、国庫の糧食を放出したが、それでは救えないほど多数の飢えた民が各所に現れた。
その緊急時に、杭州の知事であった范仲淹は、あえてドラゴンボートレース(競渡)を開催し、飢饉のときの工賃は安いからと言って、大寺院に土木工事などを行わせた。
中央の監察官は「范仲淹が競渡にふけり、公私の建築工事で民を消耗させている」と批判したが、范仲淹は「競渡の集客で消費が増え、商いが盛んになり、寺院工事などで民の雇用が増えた。これぞ以工代賑(仕事でもって救済に代える)だ」と説明したという。
つまり、「以工代賑」とは中国1000年の知恵であり、民の困窮を放置しておくと社会動乱が起きかねない、という支配者サイドの教訓が根っこにある。