数年後に手遅れと判断される患者も

そして今後、発売から数年を経て問題になると思われるのが、「実はあの時に投与しておけば良かった」という患者が一部に現れる可能性があることだ。

レケンビの投与対象はMCIと軽度アルツハイマー病だが、特にMCIは記憶力低下以外ほとんど問題がなく、本人も周囲も「歳のせい」で片付けてしまいがちだ。当然、将来的なアルツハイマー病発症リスクを疑って受診することは少なく、気がついたときには軽度アルツハイマー病を発症してしまっていたということが十分に起こり得る。

これを防ぐためには、中高年の健康診断などで認知症簡易診断やアミロイドβ検査を行ってMCI患者を発見する解決法も考えられるが、前述のようにアミロイドβ検査は簡単に行えるものではない。もし簡易血液検査が実用化されたとしても、大規模に行えば無駄な検査を増やす恐れがあり、適切かつ効率的な検査対象の絞り込みが必要になるが、現時点でこの点について明確な答えはない。その意味ではレケンビが登場すると、一部では不安をあおりつつ、医療保険が適用されない自由診療の検査に誘導するビジネスが増加しかねない懸念もある。

さらにMCIの患者を“掘り起こす”ことになれば、公的医療保険枠内でのレケンビの薬剤費支出は急増し、国の財政負担が激増するという悩ましい問題も発生する。

いずれにせよ死屍累々だったアルツハイマー病新薬開発は、第一段階の長いトンネルを抜けたかもしれないが、この先も課題山積であることはほぼ間違いないのである。

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