失敗が相次いだアルツハイマー病の新薬開発

アルツハイマー病とアミロイドβの関係が明らかになり、これを標的としたアルツハイマー病の新薬開発は2000年前後から活発化し始めた。しかし、新型コロナウイルスのワクチンを世に送り出した世界ナンバーワンの製薬企業ファイザーをはじめとする、通称メガ・ファーマと呼ばれる製薬国際大手各社が取り組んだ新薬開発は、第3相試験と言われる最終段階の臨床試験で十分な有効性を示せず、つい最近までことごとく失敗に終わっていた。

実際、米国研究製薬工業協会が2015年7月に公表した報告書では、1998~2014年に臨床試験が行われたアルツハイマー病新薬候補127成分のうち、規制当局からの製造承認取得に至ったのは4成分、確率にして3.1%にすぎない。新薬開発では、一般的に臨床試験入りした成分の10%強が市販にこぎ着けるが、アルツハイマー病治療薬ではその3分の1という超低確率なのだ。

ちなみにこの4成分とは、今回のレケンビの開発に名を連ねるエーザイが、アメリカで1997年、日本で1999年に発売した世界初のアルツハイマー病治療薬アリセプト(一般名:ドネペジル)をはじめとする、現在国内外に存在する4種類の治療薬そのものである。

アルツハイマー病治療薬の開発が難しいのは、(1)病気の原因にまだ不明点が多い(2)進行がゆるやかで一般的な第3相試験期間である1~2年では効果が確認しにくい(3)脳への作用成分ゆえに有効性が得やすい高い投与量の設定に製薬企業が慎重、などが挙げられる。

「アデュヘレム」の承認を巡る審議

実は今回のレケンビ以前にアメリカでは2021年6月、同じエーザイとバイオジェンが開発したアミロイドβを標的とした人工的な抗体を成分とするアデュヘルムが世に送り出された。しかし、この薬では2つの第3相試験のうち、投与量が多い試験では有効性が示された一方、もう1つの臨床試験では有効性を示せなかった。

このため専門家内では承認に否定的な見解が大勢を占めたが、長らく新薬が登場せず、患者や家族の期待も高いという理由から、アメリカ食品医薬品局(FDA)は承認後に追加臨床試験データを提出することを条件に「迅速承認」という“政治判断”に踏み切った。いわば仮免許のようなものだ。

FDAの本部「ホワイトオーク・キャンパス」
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しかし、適応が大幅に制限されたため、存在はしても実質的にはほぼ使えない薬となってしまっている。ちなみに日本でもアデュヘルムの承認を巡る審議が行われたが、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会は現在のデータでは有効性の判断が困難として、継続審議という形で承認を見送っている。

そうした中でレケンビは今年1月、第3相試験の一段階前の第2相試験での有効性データを基に米FDAから前述の仮免許に当たる迅速承認を取得。その後、第3相試験で示せた有効性データを提出し、この7月にアメリカで正式承認に切り替えられた。そして今回、日本でも正式承認されるに至った。