薬剤費だけで月9万円と高額
こうした医学的な適応をすべてクリアできた患者でも、全員がこの治療を受けられるとは言えない。まず、この薬は1週間おきに医療機関で点滴が必要なため、その通院が可能な人に限られる。
さらに、それ以上に問題なのが薬剤費だ。レケンビは前述のように人工的な抗体を医薬品としたものだが、その製造は複雑かつ高コストで、一足先に承認されたアメリカでの年間薬剤費は約375万円とされている。
日本での公定薬価はいくらになるかは現時点では決定していないが、アメリカより極端に安い価格になることは考えにくい。仮にアメリカと同額だった場合は、1カ月の薬剤費は約31万円。医療保険の3割負担ならば、薬剤費だけで1カ月9万円超となる。診察料、副作用チェックのための検査費用を含めれば、それ以上だ。
実際にレケンビを投与されるのは1%程度か
もっとも日本では医療費が高額過ぎて治療を受けられないことがないように、収入に応じて月当たりの支払い医療費上限を定めた「高額療養費制度」がある。例えば70歳以上で年収約370~770万円の場合、月当たりの医療費支払い上限額はかかった医療費の総額によって異なるが最低で8万円強。これ以下の年収では月額一律1万8000円と大幅に下がるが、早期アルツハイマー病と診断される年齢層は現役世代より収入が少ないのが一般的であることを考えれば、この負担は相当重い。
このように医学的な適応をクリアしても投与にたどり着く人はごく限られる可能性は高い。一説には前述の推計約675万人の認知症患者のうち実際にレケンビを投与されるのは1%程度ではないかとの見方もあるくらいだ。
しかも、この1%、約6万人が投与を受け、アメリカとほぼ同薬価と仮定すると、国内で消費される年間薬剤費はこの一剤で約2000億円に達する。日本国内で最も売れている医薬品の売上高規模が約1400億円であることを考えれば、公的医療保険財政に強烈な負担を与えることになる。