レケンビの効果は目で見えない

過去10年以上、多くのアルツハイマー病の新薬候補が挫折して消えていった中で、ようやく登場したレケンビだが、実は課題も多い。

まず、改めて強調したいことは、この薬はアルツハイマー病を治す薬ではなく、進行速度を緩やかにする薬である。溜まっているアミロイドβを分解・除去するものの、投与時点までに損傷した神経細胞は元には戻らない。しかも、脳内ではアミロイドβが溜まる現象は続いている。根本療法には近いが、例えて言えば、浸水が始まった家の中の水を必死にポンプでくみ出すようなイメージだ。

アルツハイマー病でも神経の死滅がかなり進んでしまっている中等度以上の患者は効果が期待できないため、投与対象はあくまで早期アルツハイマー病と称される、軽度アルツハイマー病とその前段階のMCIに限定される。前述のAMEDの2025年時点の推計ではアルツハイマー病患者は466万人とされているが、早期アルツハイマー病はこのうち約4割と言われ、この段階で使える人は186万人程度に絞り込まれる。

シニアの患者に寄り添う医師
写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
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しかも、前述の「進行を27%抑制する」という効果は、患者自身や家族が実感できる、あるいは目で見えるものではない。しつこいようだが、あくまで進行を抑制するものなので、この薬で物忘れなどがなくなったり、軽くなったりするようなものではないのである。

さらに極端な話を言えば、医師ですら目で見てわかるものではなく、前述のCDRなどで定期的に評価し、レケンビを投与していない人と比較して何となく分かるようなものと言っても良い。

投与に必要な診断・検査に付きまとう“制限”

また、実際の投与対象は早期アルツハイマー病の中でも、検査でアミロイドβが脳内に溜まっていることが確認された場合のみだ。この検査は陽電子放出断層撮影(PET)あるいは脳脊髄液検査(CSF検査)の2種類あるが、実はこれらを受けるのは必ずしも容易ではない。

PETの場合、使用する放射性診断薬は比較的短時間で使い物にならなくなるため、製造場所から輸送に時間を要する地域では、検査そのものが困難である。しかもPETの読影訓練を受けた医療従事者がいる医療機関も限定的。さらに現状でPETは近く保険適応になる見通しだが、それでも検査の患者自己負担額は数万円の見込みだ。

一方、脳脊髄液検査は高額ではないが、局所麻酔のうえ背中から針を刺し(腰椎穿刺)て採取することが必要になるため、患者にとってはかなりの負担になる。

昨今ではこうした経済的・物理的負担を考慮し、アミロイドβ量を測定する簡易な血液検査の開発が進んでいるものの、正式にこれが使えるようになるのはもう少し先になる見込みだ。

こうなると早期アルツハイマー病患者の中でも医療機関の所在地、検査費用や身体の負担などから検査を受けられる人が絞り込まれてしまう。