力で阻止しても、経済損失は大きい
しかしながら、そのような政策を採用するのは、少なくとも短期的な代償を伴う。アメリカはサプライチェーンや市場を中国と極力切り離していくデカップリング政策を進めている。世界の技術革新は今やアメリカと中国の2国によってリードされている今、2国が反目しあうのは世界にとって不幸な状況である。
経済のデカップリングは、デカップリングをする側とされる側の双方に経済的なダメージをもたらす。日本貿易振興機構(JETRO)のアジア経済研究所が今年2月に公表したシミュレーションによると、アメリカ陣営と中国ロシア陣営の間に米中貿易戦争並みの非関税障壁が設けられた場合、アメリカ、中国、EU、日本経済への影響はマイナス3.0〜3.5%で、ウクライナ侵攻への制裁が引き起こした世界経済への影響(マイナス0.1%)よりも大きいという試算をしている。
中国経済が停滞すれば、当然ながら日本にも影響は及ぶ。輸出でも輸入でも、日本にとって中国は第1位の貿易相手国であり、そのシェアは約20%もある。大和総研のレポートによれば、最近の中国の団体旅行解禁で日本でのインバウンド消費額は2000億円程度押し上げられるという。両国間には、それだけの経済的なつながりがある。
囚人のジレンマの現況では、相手の横暴には基本的に力で阻止するしかない。そのためにはアメリカとの安全保障体制やFOIPの連携を利用すべきである。しかし、同時に経済損失も大きい。日中の政治家や外交官には、両国の協調を生むようなきっかけが少しでもあれば、それを最大限活かしてほしい。そう祈るような気持ちである。
(構成=川口昌人)