2016年に導入された長短金利操作を戻すべきか

1月8日、私は88歳になった。長生きするのはありがたいが、元日には私が東京大学のゼミで教えていた、経済評論家の山崎元氏が亡くなった。若い友人に先に逝かれるのは悲しい。山崎氏は将棋と囲碁が強く、卒業後「浜田先生のリフレーション寄りの政策は間違いと思っていましたが、今は正しいとわかりました」と語ってくれた。

地震とそれに関連した羽田空港の事故もあり、正直なところ、今年への期待や抱負を述べる気分ではない。しかし気を変えて、今回は今年の金融政策の理解の基礎となる金利構造について述べたい。

現在まで日本銀行の金融政策運営の指針となってきたのは、2016年9月に導入された長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)と呼ばれる方法である。円安が進み、デフレに慣れた日本にもインフレの波が伝わりつつある現在、長短金利操作方式を伝統的な金利政策に戻すべきかどうかが議題に上がっている。

下の図は、国債、社債など債券の満期までの残存期間とその利回りとの関係を描いたもので、「イールドカーブ(利回り曲線)」と呼ばれるものである。通常の貸し出しの場合、より長い期間のローンのほうが短い期間のローンより貸し手に対して危険性が増すと考えられるので、満期までの期間の長いほうが利子率も高い。つまり利回り曲線は一般に右上がりであると考えられていた。銀行が提示する預金の利子率は、当座預金の利子率が最低で、長期預金ほど利子率が高いと決められている。

私が日本で教壇に立っていた1980年中ごろまでの銀行経営は、このような右上がりの順イールドを前提にした貸し出しが基本であった。銀行は安い預金金利で一般から預金を集め、一定の利ザヤが保証されている長期の利子率で企業に貸し出すことができた。日本銀行と大蔵省(現・財務省)に与えられる利子体系に従っていれば稼ぐことは難しくなかったのである。当時、ゼミ生の最も安定した就職先は銀行であった。

ところが、イールドカーブが右下がりの逆イールドになることもある。それが起こるのは、例えば金融政策が将来金融緩和の方向に向かっていて、金融市場で短期金利が低下すると考えられるときである。投資家が将来の短期金利が現在より低くなると予想すれば、利回り曲線の勾配は右下がりにもなりうる。