不動産市場が崩壊すると、金融機関から借金して住宅に投資していた企業や投資家がお金を返せなくなる。収拾するには、政府や中央銀行が不良債権を買いつくさなければならない。08年のリーマンショックのときには、米連邦準備銀行(FRB)が、ドル安になるのを顧みず、値崩れした不動産担保証券などを1兆7500億ドル分も買い取った。

中国の人民元は05年に固定相場制から変動相場制に移行したが、完全な変動制ではない。定期的に変更される基準値から一定の範囲内(対ドルで1日あたりプラス・マイナス2%)の変動しか許されない「管理された変動相場制」である。市場が需給によって為替レートを決定するのではなく、当局の職権と規制によって為替をコントロールしようとするわけである。

中国が市場経済の国であるなら、不動産の問題に対しては為替変動を自由にして、リーマン危機の際に欧米が行ったように不良債権を買い取って大規模な金融緩和を実施せよと提案したい。しかし、「社会主義体制では投機を許すような自由化はできない。そもそもバブル自体が市場経済の欠陥なのだから、計画経済ではもっとうまくやれるはず」という理由で、この提案は受け入れられないであろう。

処理水放出の非難にいかに立ち向かうか

習近平体制下の中国は、日本を含む周辺諸国にますます攻撃的な外交姿勢を強めている。尖閣諸島周辺では、中国の艦艇や巡視船が連日示威行動を行っている。原発処理水の海洋放出についても、自国民には政府の主張だけを伝えて、客観的・科学的な情報を遮断しながら日本を非難し続けた。残念なことに、現在の中国社会では、中国共産党の方針に異を唱えられる人々が無力となっているように思われる。

経済と安全保障の間で世界は難しい局面を迎えている。これはゲーム理論で「囚人のジレンマ」と呼ばれるシナリオである。2つの国があるとき、両方が融和型の政策を取れば、互いの利益は最大化して世界はうまくいく。ところが、片方が融和型、もう片方が強硬な姿勢を取った場合は、融和型の政策を取った国が一方的に大きな損害を受けることになる。そうした恐れを互いに抱いているため、結局は両国ともに強硬策を取らざるをえなくなる。

つまり、中国が今のように強硬な外交姿勢を取っているかぎりは、日本は米国の威を借りてでも、また多くの国々を味方につけながら、自国や周辺地域の平和を守ることを第一義としなくてはならない。安倍晋三元首相の進めた安全保障関連の法整備や防衛力の強化、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」戦略はまさにそのためのものであった。

処理水放出の問題については、科学に頼るしかない。そこで日本政府は国際原子力機関(IAEA)にお墨付きを求め、大半の国々から容認の姿勢を得ることができた。

結局、米中対立の中にいる日本は、米国や自由陣営の諸国と連携をとり、中国に対して力を持っていることを示さねばならない。歴史を振り返ると、冷戦時代のアメリカとソ連の緊張緩和も、レーガン・サッチャーによる自由陣営の毅然とした態度によって生じたのである。