物価高の傾向が続いている

日本では2021年9月から消費者物価が前年同月比で上昇に転じ、23年6月分の総合指数は3.3%の上昇を記録するなど、物価高の傾向が続いている。そうした中、日本銀行の植田和男総裁は7月28日、現在のイールドカーブコントロール(YCC)の運用について修正する方針を表明した。

食料品店で心配する女性
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これまで10年物国債の利回り(長期金利)の許容変動幅の上限を±0.5%程度に据え置いていたが、事実上1%まで容認する「柔軟化」を決定。基本的には長期金利の形成を市場に委ねることを認めた。これが、「異次元緩和の出口」を目指していると受け止められている。

マイナス金利は、日本銀行にお金を預けている銀行から税金を取るような制度なので、銀行界を萎縮させる政策である。またYCCはアベノミクスの異次元緩和の効果がか弱くなった16年9月にやむをえずに導入した施策だった。そのため、日本銀行が金融政策をより柔軟に行えるように変えたいことは理解できる。

私も、必要があれば日本でも近年のアメリカのように短期金利を引き上げてもいいのではないかと思う。23年8月中旬現在、円が140円台半ばとかなり円安になっているが、これは日本産業の経済の活力を保つ状態である。

長きにわたって、日本銀行による円高を志向する金融政策で苦労した日本経済にとっては、一時の円安も息抜きとして許されていいのかもしれない。しかし、いずれは円安の進行を避けるため、柔軟な金利政策が求められるようになるだろう。一方でゼロ金利に慣れてしまった銀行や証券保有者にとって、それが大きなショックとなるようでは困る。この相反する2つの要請を、「なだらかな出口」を求めて達成するのが植田総裁の直面する課題である。